長年劇場を支えていたメンバーの卒業、大阪組の上京、そしてヨシモト∞ホールが渋谷よしもと漫才劇場になり、神保町よしもと漫才劇場とひとつになって誕生した“東京マンゲキ”。最初は新しい環境に戸惑いもあったというが、徐々に新しいノリやくだりも生まれ、いい方向に進み出しているという。
そんな東京マンゲキで、12月31日(水)に『渋神大晦日2025「紅白カウントダウンパーティー」』が開催される。リーダーを務めるのは、紅組・蛙亭&ケビンス、白組・滝音&そいつどいつ。公演に向けてはもちろん、ここ数カ月で起きた東京マンゲキの変化について、各組を代表して、ケビンスとそいつどいつが語る。

仁木恭平(にき・きょうへい/1991年6月19日生まれ、北海道出身/写真左)と山口コンボイ(やまぐち・こんぼい/1993年5月25生まれ、新潟県出身/写真右)によるコンビ

市川刺身(いちかわ・さしみ/1989年12月27日生まれ、東京都出身/写真左)と松本竹馬(まつもと・たけうま/1989年8月31日生まれ、福岡県出身/写真右)によるコンビ
お笑いのために健康の話をやめる

3月にヨシモト∞ホールが閉館、4月から渋谷よしもと漫才劇場としてリニューアルオープンし、東京の劇場が大幅に改変された激動の年でした。どんなところで変化を実感していますか?
この間、土日の寄席の入り時間に行ったら元神保町(よしもと漫才劇場)芸人しかいなくて。いろんなところを探し回ったんですけど、どこに行っても∞芸人がいなかったんですよ。「もう会えないんだ……」ってなりました。
そんなことない(笑)。
たまたまその日がそうだっただけでしょ(笑)。でもたしかに、これまで毎日のように顔を合わせてた人と全然会わなくなりました。リセットされた感じですよね。お客さんも、これまでは神保町は若手を応援したい人、渋谷はちょっとベテランを応援したい人で分かれていたわけじゃないですか。それで休日はパンパンに入っていたのに、全部一緒になった結果、弾けて消えてどっちもいなくなった時期が正直ありました。
相殺してた時期、あったね。
でも今は極・翔メンバー合わせて126組の中で新しいノリやくだりが生まれて、またお客さんが戻ってきてる気がします。
∞ホールのときは俺たち18期が一番後輩だったんですよ。だから先輩にいっぱいごちそうになってたんですけど、後輩が来てごちそうする立場になったんで、嫌です。「もうお兄さんになったんだな」って寂しさはありますね。
急におじさんになった感じがする。健康の話を全然しないやつばっかりなんだよ。
みんなで人間ドックの話をしてたときに川瀬(名人/ゆにばーす)さんが「いや、もうやめよう」って言い出して。「俺、これから一生健康の話せぇへん。このままだと若手に負ける」って、お笑い的な側面から健康の話をやめることに決めてました。
俺は一緒になったのはいいことだと思ってますけどね。「嫌だ」って言ってるやつはたぶん、あんまりがんばりたくないやつらだから。
環境は変わったほうがいいですからね。情けないんですけど、今は神保町がめっちゃ賞レースで強いんですよ。『M-1』も元∞メンバーは全然行けなくて神保町メンバーばっかりで。そういう若手のエネルギーを吸収して僕らももう一回変わるって意味で、めっちゃいいと思ってます。
東京のお笑いの武器は一人ひとりの個性

∞時代の終盤には大阪芸人の方々が大勢加わった変化もありました。大阪と東京で平場のノリの違いはやはりありますか?
全然違うと思います。大阪は積み上げて積み上げて誰でもオトせる状態を作る、東京は一歩目から「こいつでオトす」を決めてそのためのフリをする団体芸のイメージですね。
『needs』【※】のせいだ。『needs』はボケ役をひとり決めて、ほかの人はそれにパスを回すやり方だったから。
※作家の山田ナビスコが主催する『次世代コーナーライブ「needs」』のこと。長らく続く伝統あるライブで、東京吉本の若手はここで鍛えられる
仁木くんが言ってて「なるほど」と思ったのが、たとえば僕がチョキピースをやったときに東京は「よっ!」だけど、大阪は「なんだよチョキピースって!」ってツッコむのが違いだよね、っていう話で。大阪の芸人さんが増えて、ツッコまれることが増えたのはたしかに感じますね。
ウケないからもうやってないんですけど、僕も似たところで「余裕〜〜〜」っていうのがあって。あれは余裕じゃなさそうなときにやるとツッコミがあって成立するけど、意味なく出てきて「余裕〜〜〜」ってやったところでそれは「よっ!」としか言えないよな、と思いますね。「なんでだよ」ももらえない。
「なんだそれ」でいいんだけどね。たぶん「よっ!」って言ってるやつはツッコミが浮かんでないんですよ。それは逃げだから、ツッコんでいきたいです。
チョキピース、ツッコめんなぁ。俺、無視してるかも。
無視は悲しいな(笑)。「黙れ!」でいいんだよ。
「黙れ!」はツッコミなんだ(笑)。

逆に、東京の劇場ならではの魅力はどこにあると思われますか?
個性ですね。吉本だけでひとつの国を作ろうとしたら成立するぐらい、いろんなバックボーンを持った芸人がいるから。
これは東京ならではなのかわかんないですけど、なんの価値も産まないことをやるのはおもしろいなと思います。カゲヤマさんが毎年年末に「カゲヤマルーレット」っていうのをやるんですよ。その中の罰ゲームで、竹馬は「1週間シャドーボクシング生活」したり、僕は普段白ブリーフ履いてるからって「6日間トランクス生活」させられたりしてて。
吹っ切ったときにめちゃくちゃやるのは東京のほうかもね。僕は大宮(ラクーンよしもと劇場)のライブによく出てて、「大宮セブン」や「一座」のライブって相当めちゃくちゃするんですけど、それを楽しみにしてるお客さんがいるんですよ。独自の進化を遂げて一部のマニアが生まれるような濃いお笑いは、人が多いぶん、東京のほうが生まれやすいのかもしれないです。
渋谷や神保町以外にも大宮や幕張(よしもと幕張イオンモール劇場)があって、いろんな場所でいろんなお笑いをやれて、吉本以外の事務所の方もいて、全部の要素が入った血になってるのは東京のよさだと思います。
おもしろがれるものの種類が多いのかもしれないっすね。
朝4時まで続いた打ち合わせ

12月31日に『渋神大晦日2025「紅白カウントダウンパーティー」』が開催されます。打ち合わせの段階からみなさんも参加されたそうですね。
最初なんの打ち合わせをするのか知らないまま行ったら、タイトルから企画からグッズ、フライヤーのデザインまでほぼ全部だったんですよ。それでみんなで意見出し合って6時間ぐらい話し合って。最初は「だる……」って思っちゃいましたけど、なんだかんだふざけながらやれたんで、楽しかったです。
終わったの、朝4時ぐらいだったよね。途中までは秋定(遼太郎/滝音)さんとか竹馬が質問ボケみたいなことをポンポンやってたのが、3時ぐらいになったらさすがに疲れてきたのか、ここでは書けないようなことを言い出してた(笑)。
僕らはキャッキャやってたんですけど、気づいたらコンボイが6時間中4時間しゃべってなかった。だからコンボイは楽しかったかわかんないです。
しゃべってたよ!
トータルしたらマジで2、3言だった。最後に話し合いの振り返りをしてたとき、「あの発言、なんだったんだよ」ってイジったらなぜか「いや、ボケだろボケ!!!」って急にマジギレしてきました。
(目つぶしの動きで)「チョキピース!」って。
キレすぎだろ。チョキピースで目つぶししないよ。グッズの案を出すときに「おみくじステッカーってどうですか?」って言ったんですよ。渾身の意見だったんですけど、「それはもともと劇場でやる予定です」って言われたので「なるほどなるほど。僕もいいと思います」って言って終わりました。
今の段階で言える、今回のフェスの見どころを教えてください。
チームの分け方が今までのフェスと違うんですよ。今までは「東京vs大阪」とか「若手vsおじさん」だったんですけど、「それはやめよう」ってなって。全員が事前に大喜利に答えて、それがおもしろいかおもしろくないか赤嶺総理に審査してもらって「大喜利強いチーム」「弱いチーム」に分けました。やっぱり渋谷とか神保町とか大阪とか、全部ぐちゃぐちゃにしないと新しいノリも生まれないんで。
個人的に、形式上だけどチーム分けが決まった段階でどっちかが“負け”ててほしくて。構図を作りたかったんですよね。じゃあもう大喜利で決めるか、ってなりました。YouTubeの生配信で発表したとき、コメントで「大喜利弱いチームが不利じゃん」って書かれてましたけど、全然そんなことないんですよ。コーナーのおもしろさに大喜利力は関係ないし、むしろ大喜利弱い人のほうが爆発させることも多いんで。
どっちが大喜利強いチームでどっちが弱いチームなのか、僕らもまだ知らないんです。チーム分けの結果は見たんですけど、マジでわかんなかった。「こっちが弱いチームなのかな」と思ったら「え、でもこの人いるから違う!?」って。そのへんも新しい感じがして楽しいですね。

コンボイは悪気のないトラブル男
最後に、今注目している東京マンゲキメンバーを教えてください。
DOG FOOD PARTYってめっちゃ若手のコンビがいて。Tatsumaki boyって子がビート作ってるんですけど、それがすごい最近のHIP-HOPカルチャーの感じのネタなんですよ。これまでのラップとかHIP-HOPネタとはまた違って、トラップミュージックみたいな今のトレンドをお笑いにしてるのがすごくおもしろいです。

九条ジョーっすかね。あんなエリート芸人が完全に嫌われて、でも笑いは取っててしっかり劇場メンバー入りして。ちょっと“人生”すぎるんで、ずっと見ちゃいます。

あのー、知ってるかな……(微笑)。エバースっていうコンビがいて。
照れ笑いだけやめてください。
「知ってるかな」の時点でわかっちゃったな。
振りかぶっちゃったから。
マジでいうと、アズーロ24ってコンビがおもしろいです。すごくおもしろいネタやってるのに、『M-1』だとなかなかウケなくて上がらなくて。しゃべくりで設定がおもしろくて、それこそエバースと傾向がちょっと似てると思うんで、本人たちはめちゃめちゃ敵対視しているというか。敵対視してるかどうかはわかんないけど。

わかんないの!? そういう話があるのかと思ったじゃん。
僕の主観というか邪推です。勝手にそうにらんでます。
それを「敵対視」とか勝手に言うところが、そいつどいつを解散ギリギリまで追い込んだんだろ。
コンボイは俺に「刺身が竹馬の悪口言ってたよ」って言ってきたからね。
俺らが初めて『ABCお笑いグランプリ』決勝に行ったころね。「よっしゃー、がんばるぞ!」ってときに竹馬が喫茶店で「ちょっと一回、話そうか」ってピリッとした空気出してきて。何かと思ったら「お前、俺の悪口ずっと言ってんだろ」って言われて、俺は覚えがなさすぎて「は!?」ってなりました。
それぞれと一緒にカフェ行ってしゃべったり作業したりする時間があって、お互いの相方への思いを聞いたんですよ。大事な時期だったんで、「これは第三者がしっかり伝えなきゃいけないことだ」と思って言ってしまったんです。
俺はコンボイに何も話してないよ。
俺も話してない。
(笑)。捻じ曲げ芸人じゃん。
トラブル男。
悪気はないのが一番厄介。
あれは申し訳なかったね。
そこでそいつどいつさんがしっかり話し合って解散を回避したことで、こうして一緒にフェスのリーダーを務められる日が来たわけですね。
本当ですね! がんばったな、お前ら!
なんだこいつ。
お前のせいだよ!

『渋神大晦日2025「紅白カウントダウンパーティー」』
日時:2025年12月31日(水)
会場:渋谷よしもと漫才劇場、神保町よしもと漫才劇場
出演者:出演者多数
公演数:各劇場4公演
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