バトルライブでの敗北、観客に受け入れてもらえない日々を経て、芸歴10年目の今では、劇場の“顔”として一大イベントのMCを任されるまでになったフースーヤと天才ピアニスト。芸人として育ててもらった劇場のために、そして、これまで以上に“おもろい”劇場へと進化させるために。ふた組は、まだ誰も試していない企画や、観客に受け入れられるかすらわからない実験的なライブを自らの手で立ち上げている。
12月31日(水)には、COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで『大晦日大祭典2025〜ダブルヒガシゲートからこんにちは!確かにお前の盆踊〜りは、ヨヤクナッシングトゥーマッチ!大屋根ぇ〜リングでワャクワャクカウントダウン!!〜』のMCをカベポスター、ダブルヒガシとともに務めるふた組。おもしろいだけじゃない、ライブの作り方を語る。
目次
漫才劇場での単独ライブを満席にするまでの壁

田中ショータイム(たなか・ショータイム/左)と谷口理(たにぐち・おさむ/右)によるコンビ。NSC大阪校38期出身

竹内知咲(たけうち・ちさき/左)とますみ(右)によるコンビ。NSC大阪校38期出身
大阪・よしもと漫才劇場(通称・マンゲキ)は2024年12月に10周年を迎え、さまざまなイベントを開催してきました。ふた組も芸歴がもうすぐ10周年になります。デビューした当初、劇場に所属するということは遠い目標でしたか?
フースーヤは光の速さで劇場入りしたよな。
ただ、俺らは正式に入ったわけじゃないからな。
僕ら、バトルライブで何回も負けていたころ、同時並行でテレビにも出させてもらって、「フースーヤはメディア露出が多いから、このまま劇場入り」となったんですよ。だから最初は劇場を応援してるファンから白い目で見られて……。炎上に次ぐ炎上でした。
バトルライブで勝たないと入れないので、「そんなわけないやろ」って。
劇場のファンの方は、売れてたりメディアの露出多かったりすると、推したい気持ちが下がるんですよ。
そのフースーヤを除くと、大阪NSC38期でバトルライブから正式に勝ち上がったのは、私らが一番なんです。でも入れ替え戦で負けちゃって、1年かかってまた上がった。それから2、3年は、劇場メンバーとオーディションメンバーの狭間みたいな存在でしたね。
入れ替え戦の『チャレンジバトル』では1位を獲るのに、上がって劇場所属メンバーだけのバトル(『Kakeru翔グランプリ』)に出たら1票しか入らなくて、また落ちるという。
毎回落ちすぎて、「あいつら出番とギャラ増やそうとして、わざと落ちてるんじゃないか?」と噂になりましたから。
彼女らはその悔しさがあったんで、賞レースでここまでがんばれたんだと思います。
入れ替え戦に出た回数だけ賞レース獲ったんちゃう? 優勝した賞レース、5個やったっけ。
7個!※
“ナナコ”ってセブンイレブンのポイントカードか!
いつもね、このくだりのために少なめに言ってくるんですよ。
※天才ピアニストの受賞歴
2022年『第52回NHK上方漫才コンテスト』優勝
2022年『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』優勝
2023年『第八回上方漫才協会大賞』大賞
2023年『第12回関西演芸しゃべくり話芸大賞』優勝
2023年『令和5年度NHK新人お笑い大賞』優勝
2024年『第59回上方漫才大賞』新人賞
2025年『令和6年度咲くやこの花賞』大衆芸能部門
フースーヤさんは入れ替え戦に落ちて、消耗しなかったんですか。
僕らはね、落ちたことないんですよ。実力で劇場に入れなかったぶん、「ウケたい」が強くてめっちゃ気合い入ってたからか、バトルで下位を取ったことがない。常にウケ続けてここまで走ってきて、それが今の結果ちゃいますか?
劇場の宝です。
まあ、もちろん実力もあるしネタもおもしろいし、なにより人気をずっと継続させてるのがほんまにすごいなって思います。
ここだけの話、4、5年目ぐらいのときはやばかったよ。単独をやったらお客さん(劇場の)半分も入らんぐらいで、支配人からゼロ距離で「このままじゃもうマンゲキで単独できませんね」って言われたから。
近すぎて、俺、支配人の口の中にちょっと入ってたもん。
そのときは、「なんでこいつ、このルックスで人気ないんや?」とショータイムのせいにしてました。
そこからどう持ち返したんですか。
これもまた底力で。
ほんまにこれがきっかけとかはないんです。強いて言うなら、1個いいネタができて、『M-1グランプリ』の準々決勝に進んでそのネタがハネて、霜降り明星さんのラジオに呼んでいただいて、そこでいい感じになった。次の年、最初のライブがいきなり満席になったんです。
我々もちょうど同じぐらいの時期から、単独がやっと満席になりました。それまでは80人ぐらいで。
一緒やなー。
お客さんが少ないのはコロナ禍のせいみたいにしてたけど、本当は関係なかった。埋まるようになったきっかけは、2021年の『THE W』準優勝ですね。全国ネットで初めてネタができて、おもしろかったよねって風向きが変わった。それ以降、単独は毎月完売してますね。

ウケるライブはもうええやろ
ふた組ともマンゲキで主催ライブを大事にしている印象があります。天才ピアニストさんだったら、『天才ピアニストのスーパーライブ(確定)』。フースーヤさんだったら『原始人ライブ』など。毎月主催ライブを打つのは、どういう思い入れがあるのかなと。
それは自分たちの権力誇示みたいな……。
おまえ権力誇示でやってんの!? そんな人いないと思ってた。
ひとりいました。
主催者の顔をして、「あなた、我々のライブに出てください。おめでとう」と言ってます。だからライブ名には「天才ピアニスト」と絶対に名前を入れてますね。
そういえば入ってるな。
フースーヤは入れてないな。なんでなん?
いやいや、権力誇示したくてやってるわけやないから。
『スーパーライブ』はニッポンの社長さんから受け継いだライブなんですよ。イチから自分らで打つときは、今まで劇場になくて、「こういうのあったらええな」というライブをやりますね。たとえば、女芸人だけで大喜利するとか。
そこには後輩を育てたいという気持ちもあります?
それもありますねえ。そもそもハイヒール・リンゴさんがやってる『女芸人大祭り』に、私らがめっちゃ育ててもらった感覚があるんですよ。それこそ尼神インターさんとかガンバレルーヤさんとか、当時では普通に混じれへんような先輩たちとコーナーしたり、ネタやったりして、「こんな差つくんや?」みたいな経験を何回もして、勉強させてもらったので。
その点、僕らは何も考えてません! やりたいからやるだけ。『原始人ライブ』は『スーパーライブ』の真逆で、舞台上で笑いすぎて寝転ぶとか、お客さん無視して笑うとか、そういうのが楽しいです。
だから、お客さんが誰も笑ってない、えげつない時間ありますよ。でもね、そういうライブだって事前に言ってるからもう関係ない。
フースーヤが打ってるライブは、むっちゃフースーヤらしくて、実験的なんですよね。私はライブ打つときにうまくいくだろうという安心が欲しいタイプなんで、ふたりの「おもろなるやろうし、やったれ」という姿勢は尊敬しますね。なんやっけ? 谷口がひとりでこっそりやってるライブ。
後輩を連れてやってる『一生ノリするライブ(〜地獄楽〜)』ね。「ウケるライブはもうええやろ」というコンセプトで。
「ウケるライブはもうええ」って。そんなわけない(笑)。
パンストを被って、その隙間からプリン食べたりしてるんですよ。お客さんから悲鳴上がりますね。でもあとで感想聞くと「最高」って。
ショーちゃん主催の『七服神』もお笑いとまた一線を画してますね。服好きのオシャレ芸人を集めて……。
私服で舞台に上がって褒め合って、最後に全員でGReeeeNの「キセキ」を歌って、「楽しかったな~」で終わる。僕も「もうお笑いええやろ」みたいな感じです。
ふたりともそうなんやな。
10年目はまだまだ通過点

芸歴10年を迎えて、賞レースに節目を感じたりはしますか。
関西は10年目区切りの賞レースがいくつかあるので、それはあります。我々は『ytv(漫才新人賞)』だけまだ残っていて。
最後に獲ったらかっこいいよ。前回が俺ら、今回が天才ピアニスト。
ただ、けっこうむずい。
ほんまですか。
審査員に粗品さんおるし。
去年おって次おらん、はないと思うし。
まあ、関西の賞レースが終わったという感覚はあっても、10年目だからネタを切り替えていこう、というのはないですね。
最近、賞レース不参加や卒業するパターンも目立ちますけど、出場できる限りは出続けるスタンスですか。
コンビの戦略として、ある程度売れたら出ないというのもあるでしょうねえ。せっかく賞レースの決勝行ったのに最下位やったら、「この人らオモんない」というイメージがつく最悪な展開もあるので。
でも、マジで賞レース多いんで、大会を選ぶのはすごく賢いなと思いました。ファンの方からしたら、「全部がんばって挑戦して」と思うんでしょうけど、全部出てると力が分散しちゃうんですよ。
マンゲキメンバーがほかの賞レースで活躍するとうれしいですか?
正直、誰かによります。
そうなんですよ。
最近だとラビットラさん(『第14回関西演芸しゃべくり話芸大賞』優勝)と、マイスイさん(マイスイートメモリーズ/『令和7年度NHKお笑い新人大賞』優勝)は僕らノーダメージで喜びました。
ほんまに苦労してた人らやから、報われてよかったです。
これが先輩ではなく同期……たとえば東京NSCの同期エバースさんだとどう見てます?
同期が結果出すの、むっちゃ悔しいんですよ。ただ複雑なのは、ほかの先輩から、「この期は強いな」と言われるとうれしいのもあるんですよね。
同期やけど、フースーヤは異性だし芸風もまったく違うから、「やられた」という気持ちは少ないかもしれないです。同性やったら「うわっ」ってなるし、後輩が活躍するのもきつい。昔、同期のエルフが劇場に上がったタイミングで、私らが落ちて大泣きしたこともありました。
女性ですからね、メンタルすぐ崩れるんですよ。
おい(笑)!
書かれへんやろ、雑誌に。
今の発言、どこよりも文字大きくお願いします。
なんなら、立体にできます?
冗談です(笑)。
ただ、誰が活躍するにしても刺激にはなりますよね。賞レースの決勝行く人って、劇場によく残って準備していたり、直前の寄席でピリピリしてネタを詰めていたり、それによって結果が出ることを肌で感じるので。
とか言いながら、ここは賞レース6個も獲ってますから。
7個!
「ナナコ」ってセブンイレブンのポイントカードか!
それももうええって。

失敗もフェスの醍醐味
マンゲキのイベントは東京と比べて、より一体感を感じることがあります。何が違うんでしょうか?
東京って大阪からの上京組もいて、メンバーがぐるぐる変わるじゃないですか。それがあるかもしれませんね。僕らはずっとやってるメンバーやから。
我々は関西地方出身の生え抜きのメンバーですけど、東京の劇場はそんなことないですもんね。劇場への愛着が違うんやろうなって思います。たぶん東京の人は仕事をしに劇場行ってる感じで、私らは生活の一部というか。ネタ合わせするのもネタ作るのも表に出るのも全部劇場なんで。
大晦日イベントでは、昨年に続いてダブルヒガシさん、カベポスターさんと4組でMCを務めますね。
劇場のフェスのMCは目指していたところですし、MCはマンゲキの顔でもあるので、これは誇らしいです。
当日は長丁場でしんどいんですけど、ありがたいという気持ちのほうが強いですねえ。
ただ正直、今年の年末にMC任されることはもうないと思ってました。だいたい、夏と冬1回ずつやったら次に代わるんですよ。同じ4組で2季節やるのは珍しくて。
また選ばれた理由はなんだと思います?
(はっきりと)華。
H・A・N・A……華?
ちゃんみなのオーディションやないか。「グループ名発表します。HANA」。
マンゲキのYouTubeチャンネルで、コンセプトを決める会議の様子を流していました。立ち上げ段階からみなさんがっつり参加されるんですね。
キックオフミーティングに芸人が入るのはマンゲキの習わしで、先輩らの流れでやってますね。雑談ばかりしてますけど。
夜中の12時ぐらい、むっちゃ深夜に打ち合わせ始まるんですよ。話が逸れたり、深夜のテンションでわけわからんこと言ったりして、なかなか決まらないループに入る時間がいつもありますね。
ひと晩で決まるもんなんですか?
タイトルとコンセプトとグッズ内容だけは、なんとかその日に決めます。4組が集まれる日が本当になくて、基本一発なんですよ。
『THE FIRST TAKE』と一緒。まあ参加したほうが身が入るし、ワクワクしますからね。
より盛り上げよう、一緒にがんばろうという気持ちにはなるんで。
でもミーティングで「これで行こう」と決めたのに、うまくいかないコーナーもあるんですよ。河野さん……コウノ・オブ・ザ・イヤーが『逃走中』(フジテレビ)のハンターのように、フェスの楽屋で芸人を追いかける「こーのー中」。あれはめちゃくちゃ失敗しました。やってみたら河野さんがジャマでしかなかった。
我々、ちゃんと企画をチェックもしたんですよ。
でも、自分らで考えたやつだから「まーまーまー」ってなりますね。
失敗もフェスの醍醐味なんで。
2024年の「ギャラクシーウォーズ」というテーマはいかがでした?
よかったですよ。ただ、今までにないテーマを探すのが大変で……。
「三国志」とか「海賊」とか、いいやつはだいたい過去に使われているんですよ。
今年10周年ですけど、20周年のフェスはいったいどうなってるのか。何もなくなって、アリとかやってるかもしれない。
『バグズ・ライフ』みたいな?
グッズもこだわってます?
それはもちろん。でもほかのヤツらと一緒に売っても意味ないというか。8月に東京でライブ(『推してまえ!ワチャラチャ忍忍TOKYO』)やって、今回と同じMC4組のアクスタを販売したんですよ。そうしたら俺しか完売しなかった。
もうええわそれ!
足引っ張られました。
うるさいですね~。延々言ってくるんです。
売れへんと思われて、こいつのやつだけ少なく作ってた可能性はあります(笑)。

『大晦日大祭典2025〜ダブルヒガシゲートからこんにちは!確かにお前の盆踊~りは、ヨヤクナッシングトゥーマッチ!大屋根ぇ~リングでワャクワャクカウントダウン!!~』
日程:2025年12月31日
<第一部>
16:00開場/16:30開演/20:00終演
<第二部> ※カウントダウンあり
20:30開場/21:00開演/24:30終演
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール(⼤阪市中央区⼤阪城3番6号)
出演者:カベポスター、ダブルヒガシ、天才ピアニスト、フースーヤ、ほか、よしもと漫才劇場メンバー総出演
フースーヤ×天才ピアニストは『Quick Japan』vol.181バックカバー&特集にも登場

12月10日(水)発売の『Quick Japan』vol.179のバックカバー&特集にも登場したふた組。WEBで未公開のアザーカットとともに、インタビューを掲載している。
「実験的セッション!」と題した本特集は、12月31日(水)にCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで行われる『大晦日大祭典2025〜ダブルヒガシゲートからこんにちは!確かにお前の盆踊~りは、ヨヤクナッシングトゥーマッチ!大屋根ぇ~リングでワャクワャクカウントダウン!!~』の特別企画。本公演で昨年に続きMCを務めるフースーヤと天才ピアニストが、漫才劇場を代表してライブに向けての意気込みなどを語る。
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