QJWebの読者の中で、冴えた学生生活を送った人はどのくらいいるのだろうか。たぶん少ないと思う。
中には教室の中心ではしゃぎ、暇になるとまわりをイジり散らかす、俗に言う“クラスの1軍”に腹を立てていた人もいるはず。僕もそのひとりで、1軍がイキるたびに「いつかコイツらを成敗してやる。俺の隠された能力でな!」と妄想していた。
今回紹介する『ジーニアース』は、そんな破壊衝動を持っていた方にオススメしたい作品。虐げられたキャラクターが、かつて自分を足蹴にしてきた一般人を特殊能力で薙ぎ倒していく。
本作は『ハイスコアガール』『ミスミソウ』の押切蓮介先生の最新作で、『週刊少年チャンピオン』(毎週木曜日発売)にて好評連載中。2月8日に秋田書店からコミックス1巻が発売された。
特殊能力を持つ新人類“ジーニアス”という存在
『ジーニアース』を読む際、最も重要となるのがタイトルの元となっている“ジーニアス”だ。このマンガにおけるジーニアスとは天才の類ではない。特殊能力を持っている新人類を指す。
突如地球に発生した変異遺伝子のせいで生まれた彼らは、特別な能力を持った自身を“ジーニアス”と語り、行動を始める。ここがすべての起点となる。
また、ジーニアスの設定で興味深いのが覚醒者の割合だ。マンガ内では1000人に1人と解説される。「自覚を持つ者、未だ気付かぬ者」と追記されるが、1000分の1はかなり多い。日本の人口が約1億3000万人なので、13万人がジーニアスとなる。能力者が活躍するマンガは数多あれど、これほど多くの人間が特殊能力者となった作品はかつてあっただろうか。
第1話は警察署をたったひとりで襲撃したジーニアス・不破勝弦(ふえどうげん)が、警官隊と攻防するシーンから始まる。不破勝弦は「進化を求める地球から『劣った種を駆逐せよ!』という声が聞こえる」と話し、警官隊とぶつかっていく。拳ひとつで警官の人体を破壊していく描写が凄まじい。たったひとりのジーニアスによって、大量の警官が吹っ飛び、散り散りに……。
壮大な物語の幕開けを予感させる派手な大コマがつづき、読者のテンションを盛り上げる。同時にジーニアスとそうでない者の分断を見て、抱く不安感。こうして特殊能力を持つ者として、行動するしかなかった不破勝弦の葛藤も語られていく。
不破勝弦の心のゆらめきがピークを迎えたのが、戦闘中にかかってきた「すずき君」からの電話だ。警官からの暴力を気にもせず、不破勝弦は電話を取り、すずき君に面倒な自分と付き合ってくれたことの感謝を伝える。
最後の攻防となり、不破勝弦は大量の警官を骸にしたあと、スナイパーライフルで撃たれる。テレビでその様子を観ていた「すずき君」こと鈴木ハジメは「アホタレが……」と吐き、涙を流す。
カットは移り、高校の教室に。モップで両腕を縛られ、ボコボコにされた甲斐神十郎(かいしんじゅうろう)が映し出される。身体に沿うように配置されたコマには「ジーニアス」と記載。煽りに煽った第1話はこうして終幕する。
自分を痛めつけたクラスメイト31人の抹殺
第2話では甲斐神十郎の悲惨な学生生活が紐解かれる。学校の支配者に目をつけられ、入学当初から過剰な暴力を受けていたことが判明。イジメはイジメを呼び、クラスメイト31人から迫害されていたこともわかる。
第1話ではジーニアス・不破勝弦が非能力者の警官隊を痛めつけていったが、その逆。ジーニアス・甲斐神十郎が非能力者・クラスメイトに痛めつけられる。このふたつの構図が今後の『ジーニアース』をさらに盛り上げていくのだろう。
甲斐神十郎はジーニアスの能力を駆使し、クラスメイトに復讐することを決意。甲斐神十郎は31人をなぶる自身を収めるカメラを鈴木ハジメに借りに行く。
ここで不破勝弦の唯一の友人であった鈴木ハジメが再登場。甲斐神十郎とも友人関係にあることが明かされる。同時に『ジーニアース』の主人公かつ狂言回しが、鈴木ハジメだとわかる。
以降、物語は加速度的に進んでいき、甲斐神十郎による31人病院送り、対ジーニアス特別捜査隊の登場、ジーニアス保護団体と世界観が構築されていく。
なぜ自分に特殊能力が宿ったのか。キャラクターごとの“ジーニアス思想”
第1巻を読み終え、最も印象に残ったのは“個”として確立したキャラクターの魅力だ。『ジーニアース』の登場人物は、ジーニアスが誕生した理由を言葉で語っていく。ただの能力バトルではなく、「優れた人間とはいかなる存在か」といった思想も戦わせていく。
「進化を求める地球から『劣った種を駆逐せよ!』という声が聞こえる」と不破勝弦、「この世が清潔でありたいという意志が働いた」と甲斐神十郎、「何かの意志が気晴らしに人類に悪戯をしている」と鈴木ハジメ、と三者三様のジーニアス思想が論述される。著者がキャラクターの語りに力を入れていることは明白だ。
今後、新キャラクターが登場するたびに新たなジーニアス思想が語られると思うと、ワクワクが止まらない。特殊能力者が苦悩を語るマンガは多いが、なぜ自分に特殊能力が宿ったのかを自問自答するマンガは貴重だ。
暴力と対話、相反するものがグチャグチャに混じり合う『ジーニアース』は劇物的でなおかつ刺激にあふれている。マンガに過度な何かを求める読者には、たまらない作品だと思う。
作品名:『ジーニアース』1巻
著者:押切蓮介
発行:秋田書店
定価:499円(税込)
初版年月日:2022年2月8日
近年、人類の中で1000人に1人に突然遺伝子が発生し、これまでの人類とはかけ離れた能力を持つ人種が生まれた。選ばれた者たちは自らを「ジーニアス」と呼び始めた。あるとき、ジーニアスである不破勝が一般市民を劣った種として駆逐するため国家転覆を始めたのを皮切りに、ほかのジーニアスが力を開放し始めた! 自称一般人だが何やら不思議な雰囲気を持つ鈴木ハジメのもとに集まるジーニアスたちと国家の壮大な戦いが始まる…!! 徹頭徹尾バイオレンスアクションが炸裂!!
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