“美しすぎる怪談師”山口綾子、初の小説!恋愛ガールズトーク×心霊現象という新感覚ホラー『アンハッピーフライデー』
“美しすぎる怪談師”と称され、マルチ怪談アーティストとして脚本家や女優としても活躍中の山口綾子。そんな彼女が初めて執筆したホラー小説『アンハッピーフライデー ――闇に蠢く恋物語』(二見書房)が、2021年7月に新創刊となった「二見ホラー×ミステリ文庫」から刊行された。
恋愛ガールズトーク×心霊現象というユニークなコンセプトの本作には、私たちの身近に、さも当然のように常識や科学の目では見えない“何か”が働いていることが記されている──。
マルチ怪談アーティスト・山口綾子の初ホラー小説
2021年7月、二見書房が新たに創刊した「二見ホラー×ミステリ文庫」。その第1弾ラインナップとして、“美しすぎる怪談師”と称される山口綾子の小説『アンハッピーフライデー ――闇に蠢く恋物語』が上梓された。
著者の山口綾子は、太田プロダクション所属の女優・脚本家。大学卒業後、製薬会社勤務やタクシー運転手を経て、2014年から怪談師としての活動を開始。怪談ライブバー「スリラーナイト六本木」で場数を踏む傍ら、タレントや怪談師としてテレビやイベントにも積極的に出演してきた。ホラーアニメ『闇芝居』では脚本や声での出演も行うなど、豊富な社会経験の中で収集した多彩なエピソードを、話術や文章、演技など、さまざまなかたちでアウトプットすることができるマルチ怪談アーティストだ。
そんな彼女が初めて書き下ろしたホラー小説が、恋愛ガールズトーク×心霊現象をコンセプトとした『アンハッピーフライデー』である。物語の主人公は、アラサーの独身女性で、脚本家であるツバサ。彼女は母の形見である万年筆でメモを取ると、霊視能力が発動する不思議な力を持っていた。
ある金曜の夜、ツバサは旧友たちと合コンを開くことになり、隠れ家的なダイニングバー「ブレ・アムール」を訪れる。ところが、時間になっても男性陣が現れないため、彼女たちは暇つぶしに「これまでに経験した最悪の恋愛」についてトークを始めることに。その会話をツバサが万年筆で書き留めようとしたとき、霊視能力が発動。旧友3人の最悪な恋愛における“修羅場”に次元を超えて迷い込むことになった彼女は、それぞれのエピソードの裏にある、戦慄の真実と対峙することになる……。
“それ”を無視して生きることはできない……
誰しもが持つ恋愛での失敗談には、憎悪や怨念から形作られた悪霊の存在があり、ツバサが霊視能力によって現場に介入することで、その真実を解明していく──というユニークな筋立てで展開していく本作。
この作品の“最悪”エピソードでも例示されているように、恋愛は我を忘れて夢中になってしまう魔力を持つために、浮気、ストーカー行為、詐欺など、ひとつ歯車が狂えば、取り返しのつかない事件へと発展していく危険性がある。
ツバサは第三者として当事者の言動を覗き見る(霊視する)ことで、「どうして人は恋愛によって変わってしまうのか」を丁寧に紐解いていく。そこには、著者である山口本人が数々の不可解な心霊現象や怪奇エピソードに触れてきたからこその、物事の背景をできるだけ見極めようとする真摯な姿勢が反映されている。
引き起こされる怪奇現象そのものの謎は解けなくとも、引き起こす人間にはなんらかのトラウマがあり、それがマグマのように爆発する瞬間がやってくるという“臨界点”に至る経緯が、徹底的に描かれているのだ。
中にはグロテスクな描写もあるものの、主題となっているのはあくまで人間の業(カルマ)であり、“人を想うこと”の強さ、それがネガティブに転じたときの禍々しさが味わえるのが本作の魅力である。
口当たりのよい読み味で、あとを引くような強烈な描写よりも、どちらかといえば人間に対する肯定感に包まれている本作。だが一方で、どのような事柄にも、常識や科学の目では見えない“何か”が働いていることがさも当然のように記されている。思ったよりも身近に、すぐそばに。“それ”を無視して生きることはできないという著者の絶対的な価値観が行間から滲み出しており、やはりゾッとさせられるのだ。