『まんがで身につく ずるい考え方』:PR

「全く働かないアリ」がいたっていい。ルーカスもジョブズもドーナツもみんなずるくて大成功『まんがで身につく ずるい考え方』

2021.3.22
ずるい考え方

文=井上マサキ 編集=アライユキコ 


ビジネスハックでよく聞く「ラテラルシンキング(水平思考)」。常識を疑い、打ち破る考え方が勝つ、利益を生む。とはざっくり知っていても、そもそも、そんな発想は、選ばれた人にしかできないんじゃないの? 違うんです、『まんがで身につく ずるい考え方』(木村尚義 著/たかうま創 作画/星井博文 シナリオ/あさ出版)を読むと、「ラテラルシンキング」がけっして難しいものではないことがわかります。

「このはしわたるべからず」に納得いかない


一休さんのとんち話に納得がいかない少年時代を過ごして今に至っている。

子供の屁理屈に大人が優し過ぎるだろう、と子供ながらに思っていた。「では屛風から虎を出してください」「これは参った!」なんて、そんなにすぐ納得してもらえるものか。「このはしわたるべからず」と書いてあるのに橋の真ん中を通るのも解せない。もし「この橋渡るべからず」と漢字で書いてあったらどうするのか。

もし「このはしわたるべからず」の世界に現代の経営者が降り立ったら、橋を作る計画を練ってしまうだろう。適した立地を求めて地域住民にリサーチし、木こりに資材を調達し、人月換算で見積もるだろう。そうやってロジカルシンキングを駆使し、PDCAを回しても、一休さんが真ん中を通ったら一瞬で終わりである。解せない。

この一休さんのとんち、ビジネスでは「ラテラルシンキング(水平思考)」と呼ばれるらしい。ラテラルシンキングは課題の前提を疑い(そもそもこれ“橋”なの?)、自由に発想し(“端”ってことでしょ?)、解決に導く(じゃ真ん中渡ろう)ものだという。

とんちでビジネスがうまくいくなんて、一生懸命橋を作ってる身からすれば、なんだか納得いかない。でも、一生懸命が必ずいい結果を生むとは限らない。

ならばもっと“ずるく”考えて、一気にゴールに到達しよう……と主張するのが、『まんがで身につく ずるい考え方』(木村尚義 著/たかうま創 作画/星井博文 シナリオ/あさ出版)。そのタイトルどおり、マンガでわかりやすくラテラルシンキングについて教えてくれる。

ラテラルシンキングにメソッドは存在しない?

『まんがで身につく ずるい考え方』は、2011年に出版され累計7万部を突破した『ずるい考え方』(木村尚義/あさ出版)をマンガ化したもの。マンガ版では神社の孫娘、品田杏奈を主人公にストーリーが展開する。

『まんがで身につく ずるい考え方』木村尚義 著、たかうま創 作画、星井 博文 シナリオ/あさ出版
『まんがで身につく ずるい考え方』木村尚義 著/たかうま創 作画/星井博文 シナリオ/あさ出版

杏奈の勤務先は百貨店の企画課。昨今の百貨店離れもあって業績は厳しく、新しい企画が求められるものの、なかなかいいアイデアは出てこない。さらに、家に帰れば祖父と父親がケンカばかり。祖父が宮司を務める神社はもうボロボロなのだが、お金がなくて修繕もままならないのだ。現状を憂う父とお金儲けを嫌う祖父で、話がかみ合わない。

みんなマジメに一生懸命やってるのに結果が出ない。どうにかならないのかしら……悩む杏奈。ある日、境内を掃除していると、目の前に突然キツネのオバケ(?)が姿を現した。杏奈にしか見えないそのキツネは、「もっと“ずるく”生きるんや」となぜか関西弁で話しかけてきて……。

『まんがで身につく ずるい考え方』の主な登場人物たち。なぜ杏奈の前にキツネが現れたかは終盤に明らかになる

こうして、マジメで融通がきかない杏奈をキツネが翻弄しながら、“ずるい考え方”を伝授していく。といっても、本書はラテラルシンキングのやり方を教えてくれるわけではない。キツネは「教えたらラテラルの力は伸びへん」とまでいう。教えてくれないの!? 

……と思いきや、そもそもラテラルシンキングには決まったメソッドは存在しないそう。ラテラルシンキングは前提を疑うもの。メソッドも作れば、それは「ラテラルシンキングのメソッド」という前提を作ることになるから。

その代わり、キツネが杏奈に伝えるのは豊富な事例。ラテラルシンキングで難局を乗り越えた具体例をたくさん吸収すれば、「これはあのパターンだ」と判断できるようになる。

なんか「職人の手元をじっと見る」みたいな伝授の仕方である。でも「無形の型を自分のものにする」と考えれば、そんなアプローチになるのも無理はないかもしれない。

ルーカスもライト兄弟もラテラルシンキングを使っていた

本書で紹介されるラテラルシンキングの事例には、具体的な社名や人名がいくつも出てくる。たとえば、クリスピー・クリーム・ドーナツの話。

日本に上陸したばかりのクリスピー・クリーム・ドーナツは、知名度の低さが課題だった。普通ならチラシを配ったり、CMを打ったりするだろう。しかしクリスピー・クリーム・ドーナツは、「12個入りのドーナツを箱ごと無料で配る」という作戦に出た。

タダで12個も!というインパクトはもちろん、ポイントは「昼間にオフィス街で配った」こと。12個入りの平箱はかさばるので、持ち歩けばすれ違う人にも目立つ。さらにひとりでは食べ切れない量なので、オフィスで分けることになる。これが口コミとなり、行列ができる人気店になったそう。

また、ジョージ・ルーカスの例では、映画『スター・ウォーズ』の製作を20世紀フォックスに持ちかけたときのエピソードが登場する。当時SFものは旬が終わったと見なされ、『スター・ウォーズ』の企画も何社かに断られていた。そこでルーカスは、脚本・監督のギャラは格安でいいと申し出る。その代わり、作品にまつわる一切の権利を譲渡してほしい、と。

そんなに安くていいのなら、と製作された『スター・ウォーズ』は世界中で大ヒット。その興行成績でルーカスも潤って……というわけではなく、ルーカスを潤わせたのはキャラクターグッズの収益だった。権利ビジネスの発想がなかった当時、ルーカスはそこに目をつけて、監督報酬を遥かに超える収益を得たという。

こうして並べてみると、クリスピー・クリーム・ドーナツもジョージ・ルーカスも、目先の利益に捉われずに成功を収めている。これもひとつのパターンとして覚えておくとよさそうだ。

ラテラルシンキングを伝授しようとするキツネだが、堅物の杏奈は“ずるい”というフレーズが引っかかるのだった(『まんがで身につく ずるい考え方』より)

別のパターンとしては、「無駄なものが役に立つ」というものもあった。ライト兄弟が空を飛んだとき、世間は飛行機なんて道楽だと思っていた。Facebookの前身は、マーク・ザッカーバーグが作った女子大生の人気投票システムだった。その後どうなったかはご存じのとおり。一見「無駄」と思われたものが、常識を飛び越えて一大産業となることがある。

ほかにも、松下幸之助やスティーブ・ジョブズ、小林一三(阪急阪神東宝グループ創業者)といった著名人のエピソードを織り交ぜながら、キツネは杏奈をラテラルシンキングへと導いていく。各章はマンガと解説に分かれており、マンガではさらりと終わったところもじっくり説明してくれる。

終わらないループを抜け出すために

さて、ここまで読んで「俺たちが必死で回してきたPDCAは無駄だったのか」「ロジカルシンキングって意味ないのかも」と、しょんぼりしてしまう方もいるかもしれない。

しかし本書は、ロジカルシンキングをないがしろにしているわけではない。キツネは杏奈に「ロジカルとラテラルの関係は相互補完なんやで」と説いているのだ。

ロジカルシンキングは論理的に道筋を考え、Plan(計画)→Do(実行)→Check(確認)→Action(改善)という一連のPDCAサイクルを繰り返し、ゴールに近づいていく。それ自体は悪いことではないが、前提を誤ったままPDCAを回しつづけると、いつまでも間違いを繰り返してしまう危険がある。効率よく“非常識”を省く仕組みだからこそ、常識から逃れにくい。

そのループを逃れるのが、ラテラルシンキングの役目。ラテラルシンキングで現状を打破するアイデアをいくつも考え、そのうち、本当に実現可能なものをロジカルシンキングで選び取るのだ。両者は両輪で回してこそ、効果を発揮する。

回る、といえば、3章に登場する「アリ」のエピソードも印象深い。

働きアリは3種類のタイプに分かれているという。2割が「必死に働くアリ」、6割が「それなりに働くアリ」、そして残り2割は「全く働かないアリ」。

働かないアリなんて必要なの?という声に、「見てみ」とキツネは土の上に円を描く。

円形の軌道にアリの集団を導くと、アリはグルグルと円の上を歩きつづける。アリは直前のアリについて歩く習性があるため、円周を果てしなく行進してしまうのだ。

そこに突然、円を飛び出すアリが出てくる。このアリこそが「働かないアリ」。開拓者である「働かないアリ」がいるからこそ、アリは新しい場所に向かっていける。無駄で非常識な存在にも役割がある。

円の上を回るアリ。PDCAのループ。問題だらけの日常。前だけを向いていると、本人も気づかぬまま同じところを回りつづけてしまう。でも、ずるい考え方を身につけた杏奈は、「はし」の真ん中を堂々と歩いてループを抜けていくのだった。

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