【『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』公開記念】『妖怪人間ベム』の命題に答えを提示した、50年を超えるシリーズの到達点『BEM』
『妖怪人間ベム』シリーズの最新作『劇場版BEM~BECOME HUMAN~』が2020年10月2日に全国の映画館で封切られる。
この劇場版のベースになっているのが、2018年に生誕50周年を迎えた『妖怪人間ベム』のリブート版として制作され、2019年に放送されたテレビアニメ『BEM』である。
設定からデザイン、音楽までもスタイリッシュに一新された『BEM』は、「はやく人間になりたい」という『妖怪人間ベム』の命題にひとつの答えを見出し、シリーズのひとつの到達点となった。その魅力に迫る。
目次
大人も惹きつける、細部にこだわった現代的な設定
1968年の初放送から52年の時を経て、未だ多くのファンに愛されている『妖怪人間ベム』。その誕生50周年記念企画の一環として2019年に放送されたシリーズが『BEM』である。
正義の心を宿した妖怪人間ベム、ベラ、ベロが、人間になる日を夢見て社会にはびこる悪を断つ。物語の骨子はオリジナルを踏襲しつつ、設定からデザインまで一新された。『BEM』の舞台は、富裕層の暮らすアッパーサイドと、貧困地域アウトサイドからなる湾岸都市「リブラシティ」。犯罪が多発しているアウトサイドに住みついたベムたちは、人知れず悪と戦いつづける。
今作でまず目を引くのが妖怪人間の設定だ。オリジナルやその流れを継いだ『妖怪人間ベム -HUMANOID MONSTER BEM-』(2006年)のベムたちは、人間の姿の段階ですでに異形の匂いを放っていた。
しかし『BEM』で描かれている彼らは人間そのもの。ベムはハットを目深に被った物静かな中年紳士で、ベラは制服姿の女子高生、ベロはパーカーにハーフパンツ、ヘッドフォンをつけた今時の少年で、人間社会に溶け込んでいる。
過去作の成人女性から大きく変わったベラのルックは、10年前に彼女が目撃した女子高生のコピー。つまり妖怪人間は自由に姿形を変えられるのだ。ベムやベロは不明だが、同様に誰かのコピーか、彼らが理想とする人間の姿ではなかろうか。
また、感情が振り切れると妖怪人間よりさらに怪物的になるという、これまでにない設定が加わった。自らの意思とは無関係に暴走する姿は、容姿とは逆に清い心を持つ妖怪人間に得体の知れない怖さをプラス。不穏な空気を醸している。
ダークな味わいが加わった『BEM』だが、より“妖怪”テイストが強まったのかといえば逆。今作の舞台設定には遺伝子工学の進歩が組み込まれており、シャープなデザインを含め、ベムたちはバイオテクノロジーの産物のイメージが強まっている。
彼らが戦う敵も、マッドサイエンティストのDr.リサイクルらが作り出した改造人間、通称ヴィランが中心。科学と超自然の境界が曖昧だった過去作とは一線を画した現代的な設定が、本作を大人の鑑賞にも耐える作品へと押し上げた。
リアル路線の点でいうと、妖怪人間は骨格レベルで人間とは異なるため変身すると衣服は裂けてしまうはずである。人間の姿に戻ると服まで元に戻るのがこのジャンルの常套だが、あえて裸のままにしておくなど“お約束”を避けている。そんな細部のこだわりに作り手の本気度が伺える。