愛する親を捨てる 半自伝的マンガ『汚部屋そだちの東大生』が問いかける「親子の絆」の呪縛
過干渉、経済的困窮……毒親と化してしまった母に苦しめられる主人公「ユウ」が、東大入学を経て“卒親”を果たそうと奔走するマンガ『汚部屋そだちの東大生』。
東京大学出身の作者・ハミ山クリニカの半自伝的マンガである本作は、その母親の毒親描写と汚部屋ぐらしのリアリティ、さらに親側のパラサイトという経済的問題もあり、本作が連載されている『マンガよもんが』の中でも共感も含めた大きな反響を呼んでいる。
果たして親とは、家族とは、自分の人生とは。読む者の内面にも踏み込んでくる強烈なマンガが登場した。
東大に合格するも、待っていたのは母からの変わらぬ束縛だった――
人間性を評価する上で、完璧過ぎるよりも少し隙があったほうが、「天然で抜けているところがあって愛らしい」だとか、「ギャップがあるからいいね」だとか、問題点すらポジティブに変換しようとするおかしなシステムがあるが、そんな転換にもやはり限度があるものだ。
たとえば、「東大生」という、学問に対する努力と才能を集約した肩書に対して、足の踏み場もないほどの「汚部屋」(しかも実家)で暮らしているという衝撃の事実が発覚したとき、我々はその状況を「ひとつの個性」と肯定的に捉えることができるであろうか。
そんな両極端なイメージを意図せず背負ってしまった人物の異質なキャンパスライフと家庭環境を追いかけ、読者を不穏な世界へと誘うのが、ハミ山クリニカが『マンガよもんが』で連載中の『汚部屋そだちの東大生』である。
都内の高級マンションで「ママ」とふたり暮らしをしている主人公・田島優(タジマ・ユウ)。両親の関係が破綻し、 家に自分をかわいがってくれる大好きな「パパ」が来なくなってからというもの、ユウはママによる激しい干渉に苦しめられている。加えてママは、最低限の部屋の掃除やトイレの補修などの生活の維持も完全に放棄したため、ユウはゴキブリが這い回る汚部屋の中で暮らすことになる。
徐々に感情の起伏も激しくなっていく彼女の逆鱗に触れぬよう、求められるがまま必死に勉学に励んだユウは、ママの希望どおり東大に合格。高校よりもさらに開けた世界へ飛び出していけるように思えたが、ママの束縛は留まることを知らなかった。
それでも、大学で出会った同級生たちとの交流を経て、自分の生活に疑問を感じ、ひとりの人間としての自立を目指していくのだが、両親の関係に隠されたある秘密が、またひとつ大きな枷として彼女を苦しめるのだった――。