『「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE」 ~ハイヒールとつけまつげ~』:PR

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

2025.7.31
九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

文=九条ジョー 撮影=山口こすも


昭和の戦前戦後を駆け抜けた歌手・笠置シヅ子の半生を歌と芝居、そして迫力ある生バンドの演奏で描いた舞台『「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE」~ハイヒールとつけまつげ~』が、8月1日(金)からIMM THEATERで上演される。2019年に大阪で初演以来、5年8カ月ぶり2度目の再演となる本作では、前回から引き続き神野美伽が主人公・笠置シヅ子を演じる。

普段はお笑い芸人として活動する九条ジョーも、今回より本作に出演。パワフルな共演者や演出の白井晃氏らとともに稽古する日々を綴る。

7月10日 お笑いでは味わう事の出来ない感覚

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記
九条ジョー(くじょう・じょー)

雨。稽古5日目。

演奏者の方たちと神野さんだけのリハーサルになり、
この日は稽古がオフになった。

溜まっていた散髪や皮膚科などのメンテナンスに
色々行きたかったが、
前日の夜からこの日の朝6時まで
本社でセリフの練習をしていたので、
目が覚めると18時を過ぎていて、
予定していた事が何も出来なかった。

一旦この日でボクに与えられたセリフは
全て頭に染み込ます事が出来た。
後は舞台上の動きや表情とセリフの強弱などを
稽古場で作り上げていく段階に入った。

お笑いは何をしてもウケていれば正解になるのだが、
お芝居の正解は演出家の白井先生の頭の中にしかない。

それを掴むのが頗る難しいし、
それを掴んだ時の楽しさは
お笑いでは味わう事の出来ないものがある。

0から1を作り出す楽しさと。
1をどこまで伸ばせるかの楽しさ。

全然違っているようで、
大きな数字を叩き出したいという根幹は一緒だった。

この期間中に培った全ての能力を、
これからも続けていくお笑いに全て還元しようと思った。

7月11日 帰り道、自転車で

曇り。稽古6日目。

息つく間も無く2部の通し稽古が始まった。
相変わらずのハイペースで稽古がどんどん進んでいく。

この日は各社の取材と公開稽古を兼ねており、
夕方から沢山の記者の方が稽古場に来ていた。

公開稽古が終わって取材が始まり、
芝居についての意気込みを出演者が
順番に答える事になり、
最後の受け答えがボクになったので、
オチを付ける為に質問に対して
全て英語で話すというボケをした。

大切な会見でスベってしまうという蛮行を犯したが、
取材の最後に白井さんが、
英語喋る人も出るので前回の大阪公演とは
全然違う内容になると言ってボクより笑いを取っていた。
恐るべし大先生。笑いの演出も完璧だった。

稽古期間を通して、
合間の休憩時間に喫煙所で福本雄樹さんと話す度に
お互いのパーソナルな部分を沢山知っていった。
同い年で同じ関西出身だという事もあり、
どんどん仲が深まっていった。

お互い自転車で稽古場まで来ていて
駐輪場が一緒だったという事もあり、
稽古終わりも途中まで一緒に自転車で帰る事が
お互いのルーティンになっていった。

彼の自転車のハンドルの中央部分には
iPhoneを固定する為の
スマホ専用ホルダーが付いていて、
それに付属してiPhoneだけを雨から守る為の
世界一小さい傘が設置されていた。

それを稽古場に来る度に、
「ジャンガリアンハムスターをハンドルで飼ってる?」
「自分で作った湯葉を自転車で乾燥させてる?」
「スズメの避暑地ってGoogleで検索したらあのチャリが出てくる?」
など色々なものに喩えて毎日笑い合っていた。

談笑しながらも、
毎日ボクの振る舞いや態度が、
稽古の進捗状況やその日のメンタルによって
左右されている事に一早く気付いていて、
誰よりもボクを気遣ってくれていた。

本当の自分を悟られないように取り繕った別の自分にも、
内側から本当の自分の体液が
滲み出てしまう事が偶にある。

それがバレないように
いつも両手で抱えて隠してしまうのだが、
福本さんにはそれが通用しなかった。
ボクよりもボクの事を俯瞰で見ている。

一番内側に抑え込んだボク本来の人間性を
即座に見抜かれた事に少し嫌気が差したが、
それを曝け出した状態でも
当たり障りなく毎日コミュニケーションを
取ってくれている福本さんの事が大好きになっていた。

これ以上道化を演じたり
嘘で取り繕った自分を見せつけても、
それすらも見抜かれてしまうような気がしたので、
福本さんの前では諦める事にした。

福本さんの人間観察能力は
俳優を長らくやっているから
身に付いたものなのだろうか。

ボクはここまで他人に干渉した事がない。

それは自分を取り繕う事で精一杯だからだと思うし、
他人に目を向け過ぎると自分を抑えられなくなる。

飄々とその2つを器用にこなしている
福本さんがとても羨ましかった。

お互い敬語とタメ口が混ざり合った喋り方で
そんな深い話から与太話まで毎日色々喋っていた。

千秋楽までには。きっと。

お互いの敬語も小さい傘の喩えもなくなっているだろう。

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

7月12日 ウルダウに対する僕なりの結論

曇り。稽古7日目。

まただ……。
またウルダウ(ウルトラライトダウン)だ。

ウルトラライトダウンと書き連ねるのも面倒なので
ユニクロ側もまだやった事のない
略し方でこれからは書き連ねる事とする。
白井さんがまたウルダウを着て現れた。

亀田のあられ。いすゞのトラック。そして。
白井のウルダウ。
ウルダウを着込みながら
熱くも軽やかに演技指導をしている。
それを全員が感心しながら聞き込んでメモをする。

遂に分かったぞ。
「ウルダウ先生」だ。

女子生徒からはウルちゃん先生と呼ばれ、
男子生徒からはウダ先と呼ばれる。

稽古場という名の教室で、
明るくて楽しい最高の授業が開催されていた。

恐るべしウルダウ先生。天晴れウルダウ。天晴れ先生。

既にウルダウに含有されている個人的な見解を
2つまで絞って前述したが、
稽古が始まってから一週間程して、
漸くウルダウについて自分なりの結論が出た。

「最高(ウルトラ)に明るくて楽しい(ライト)舞台にしようね(ダウン)!」

これだ。きっとこれなんだ。

出演者も最高。演出家も最高。製作陣も最高。

音響さんも照明さんも進行さんも劇場も。何もかも。
そしてなにより。これを観劇されるお客さんも。
全部最高なんだから最高にしよう。

それをボク等に伝える為だけに猛暑の中、
わざわざウルダウを纏っているんだと思う。
白井さんがこれまで俳優や演出家として
ここまで成し遂げて来た軌跡に思いを馳せて。

白井さんが描く最新で最高の演出の一部になって。
早くお客さまの前で何者かになったボクを表現したい。

そう強く思いながらこの日の稽古にも全力を注いだ。

7月13日 明日もまた稽古へ

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

雨。稽古場日記最終日。

全幕の通し稽古。細かい演出の追加。

休憩時間にならないと役が離れなくなっていた。

徐々に馴染んできた配役とは裏腹に、
徐々に馴染んできた代田橋の稽古場の空気感に
おさらばをして、
数日後には江東区にある本格的な舞台を模した
スタジオでの稽古が始まろうとしている。

ヘトヘトになるほど何度も練習をして
この日の稽古を終えた。

稽古場を出て自宅へ帰る途中で、
代田橋の駅前の踏み切りで電車の通過を待っている時に、
周りを見渡すとスーツを着た男性や
子供を後ろに乗せて自転車に跨がる婦人や
下校途中の学生などが傘を差してその場で佇んでいた。

ボクだけがこの世界で
取り残されているような気がした。
芝居の現場は常に寂しさを纏っている。

たまたま居合わせた赤の他人が
一つのモノを作り上げて、
一定の期間が過ぎると何事も無かったかの様に
散り散りになっていく。

ボクは孤独が大好きだし。孤独が大嫌いだ。
大勢の中に混じると孤立したくなるし、
一人きりになると誰かの温もりを感じたくなる。

ボク以外の人間もそうであって欲しいと思うし、
そうでなければボクの孤立が確定してしまう。

今は一先ず、
この気持ちを帯同させたまま
どんどん突き進んでみようと思う。

明日もまた朝から稽古だ。

無我夢中で突き進んでいるこの時間が。
何者にもなっていないこの期間が。
きっと未来のボクに繋がっていると信じて。

翌日、朝起きてから身支度を済ませて家を飛び出し、
稽古場へ向かう為に自転車を漕ぎ始めた。

途中、幡ヶ谷の駅前に置かれている
ネズミとカラスが荒らした
ゴミ袋が綺麗に片付けられていた。

誰かに笑われたような気がしたが、
気にしないようにして自転車のスピードを上げた。

ズィーヤ★🤞🏻

SIZUKO

舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』 ~ハイヒールとつけまつげ~』
2025年8月1日(金)~11日(月・祝)
会場:IMM THEATER
料金:一般席9,800円(全席指定/税込)/U-25席6,800円(全席指定/税込)ペア席18,600円(全席指定/税込)
出演:神野美伽/加藤虎ノ介/福本雄樹/九条ジョー/鈴木杏樹
ミュージシャン:小原孝(Piano)、ASA-CHANG(Drums)、竹中俊二(Guitar)、小松悠人(Trumpet)8/1~7出演、河原真彩(Trumpet)8/8~11出演、宮崎佳彦(Saxophone)、西村健司(Trombone)
脚本:マキノ ノゾミ
演出:白井晃
音楽監督:小原孝
企画・プロデュース:尾中美紀子/オフィス100%

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