『新テニミュ』はどこへ向かうのか?「舞台化は困難」説を破る、キャラクターの圧倒的存在感

2024.8.20

文=井上明日香 編集=高橋千里


昨年20周年を迎え、ますます勢いが止まらないミュージカル『テニスの王子様』シリーズ(以下『テニミュ』)。その一方で、ミュージカル『新テニスの王子様』シリーズ(以下『新テニミュ』)も今、絶大な人気を誇っているのをご存じだろうか?

2024年8月9日(金)、東京・日本青年館にてミュージカル『新テニスの王子様』TheFourthStageが開幕。本番に先駆けて行われたゲネプロの様子をレポートする。

ミュージカル『新テニスの王子様』とは?

そもそもミュージカル『新テニスの王子様』シリーズは、2003年から現在まで上演され続けている2.5次元界の金字塔・ミュージカル『テニスの王子様』シリーズの“続編”にあたる作品だ。

原作の『新テニスの王子様』も、2009年から現在まで『ジャンプSQ.』で連載されている。『テニスの王子様』では全国制覇をめぐるライバル同士だったキャラクターたちが、今度は日本代表として、ともに「U-17 WORLD CUP(アンダーセブンティーンワールドカップ)」(以下:U-17 W杯)に挑んでいく……というストーリーになっている。

『テニスの王子様』以上に迫力のあるシーンが多く、当初は「舞台化は困難」とまでいわれていた『新テニミュ』だが、回を重ねるごとに人気が増し、今回で第4章。U-17 W杯の準決勝である、日本対ドイツの試合をメインに描いている。

試合シーンの連続!シンプルな構成ゆえの「リアルさ」

舞台はまず、出演キャスト全員でのオープニングナンバーからスタート。日本代表チーム・ドイツ代表チームともに、今から始まる試合に向けて、テンションMAX状態であることが伝わってくる。

そしてそのあとはひたすら試合の連続。これは筆者が『テニミュ』を初めて観た際に驚いたことなのだが、ほとんどテニスの試合シーンのみで構成されている。

というか、原作の『テニスの王子様』も、描かれているのはほとんどテニスの試合のみ。キャラクターたちの日常シーンや生い立ちなど試合以外の部分については、試合中に回想として登場するパターンが多いのだ。

よって、『テニミュ』も『新テニミュ』も、まるで本当のテニスの試合を観に来たような感覚に陥る。二次元の中にいるはずのキャラクターたちが、三次元に現れて、本当に息を切らしながらテニスの試合をしているようだ(たまに歌ったり踊ったりもするけれど)。

キャラクターをリアルに感じられることこそが、『テニミュ』シリーズの魅力なのだろう。

『新テニミュ』ならではの、幸村の凄まじい熱演

中でも特に印象に残ったのは、第3試合。ドイツ代表の手塚国光(手島章斗)vs日本代表の幸村精市(藤田浩太朗)のシングルスだった。

派手な仕掛けやイリュージョンはなく、シンプルに両者一歩も譲らぬラリーを打ち合うだけの試合展開だからこそ、キャストの演技力がものを言うが、特に幸村の熱演っぷりが凄まじかった。

過去に自分を負かした越前リョーマを対戦相手の手塚国光に重ねながら、追い詰められていく試合の中でも、病気に打ち勝ちテニスができる喜びを体いっぱいに表現する。『新テニミュ』ならではの幸村が、そこに存在していた。

キャストの話でいうと、リョーマの兄・越前リョーガを演じる井澤勇貴の存在感も素晴らしかった。

アメリカ代表としてU-17 W杯にエントリーしていたが、今作でスペイン代表に寝返るかたちとなったリョーガ。元チームメイトである主将、ラルフ・ラインハートと試合をするのだが、試合の中でアメリカ代表を離れることの切なさ、感情の機微を見事に表現していた。

また、2幕の最後にはスペイン代表の一員として、今回初登場となるアントニオ・ダ・メダノレ(當間ローズ)、ロミオ・フェルナンデス(Sion)とともに登場し、フラメンコ調の華やかな楽曲を披露。

このままいけば次の『新テニミュ』は、日本代表vsスペイン代表の決勝戦が描かれるだろう。どのような試合を見せてくれるのか、今から楽しみだ。

先の読めない展開…『新テニミュ』はどこへ行くのか

すでに原作が完結している『テニミュ』シリーズと違い、『新テニミュ』はまだ連載途中。原作では今まさに日本代表vsスペイン代表の試合が行われており、どちらがU-17 W杯を制するのか、原作者の許斐剛以外、誰も知らないのではないか。

『テニミュ』に出演するキャストたちは、原作以外にも公式ファンブックやアニメ、ゲームなど膨大な資料の中から自分が演じるキャラクターの魅力を見つけ出し、舞台上で表現する。

観客側にも原作の『テニスの王子様』マニアは大勢いるので、「今日のカーテンコールでリョーマがやってたポーズ、原作の◯話の扉絵と同じだったよね〜!」などと理解して、キャストと観客との間で高度な「テニプリ解釈バトル」が開催されるのも、『テニミュ』のおもしろいところだ(……と書くと、「じゃあ原作を知らない人は『テニミュ』を観ても楽しくないの?」と思わせてしまいそうだが、そんなことはないので、少しでも興味がある人はぜひ観てほしい)。

しかしここから先の『新テニミュ』は、原作で明かされている情報も少なく、まだまだ謎だらけ。観客はもちろん、キャストも制作スタッフも、手探りで舞台を作っているところだろう。

だからこそ、可能性は無限大。前人未到の領域に踏み込んでいく『新テニミュ』に、これからも注目していきたい。

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  • ミュージカル『新テニスの王子様』TheFourthStage

    原作:許斐剛『新テニスの王子様』(集英社『ジャンプSQ.』連載)
    脚本/演出:上島雪夫
    作詞:三ツ矢雄二
    音楽:兼松衆
    振付:上島雪夫/井餘田修
    出演:<日本代表>越前リョーマ役:今牧輝琉、跡部景吾役:高橋怜也、幸村精市役:藤田浩太朗、仁王雅治役:内海太一、切原赤也役:古川流唯、平等院鳳凰役:佐々木崇、種ヶ島修二役:秋沢健太朗、デューク渡邊役:大久保圭介、鬼十次郎役:岡本悠紀
    <ドイツ代表>ユルゲン・バリーサヴィチ・ボルク役:ザック小林、Q・P役:パース・ナクン、ミハエル・ビスマルク役:バーンズ勇気、エルマー・ジークフリート役:チャーリー、手塚国光役:手島章斗、ダンクマール・シュナイダー役:冨森ジャスティン、ベルティ・B・ボルク役:ハルバーソン太陽
    <アメリカ代表>ラルフ・ラインハート役:ルーク・ヨウスケ・クロフォード
    <フランス代表(日替わり出演)>トリスタン・バルドー役:鮎川太陽、ティモテ・モロー役:ジェレミー・クロディス、プランス・ルドヴィック・シャルダール役:DION
    <スペイン代表>アントニオ・ダ・メダノレ役:當間ローズ、ロミオ・フェルナンデス役:Sion
    越前リョーガ役:井澤勇貴
    ケン・レンドール役:アイル・シオザキ
    Q・P(幼少期)役※Wキャスト:トレンP/クーチン埜亜
    <テニミュボーイズ>安宅波颯、内藤光佑、吉開一生

    東京公演 2024年8月9日(金)~8月18日(日)日本青年館ホール
    愛知公演 2024年8月23日(金)~8月25日(日)一宮市民会館
    大阪公演 2024年8月30日(金)~9月8日(日)SkyシアターMBS
    東京凱旋公演 2024年9月13日(金)~9月23日(月・祝)日本青年館ホール
    チケット料金 S席:9,500円/A席:7,500円(全席指定/税込)
    (c)許斐 剛/集英社・新テニミュ製作委員会


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井上明日香

(いのうえ・あすか)ライター。芸能インタビューを主に行っています。女性アイドルと舞台、ドラマが好きです。

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