石野卓球が「ライヴは確認の場ではなく新しい音や楽しみとの出会いの場だよ。予習って、学校じゃないんだから」と言っていた。いい言葉だが、実践するのは難しい。学校的な態度が内面化されているのもあるし、ライターの職業意識的にも、取材対象をできる限り調べ、取材に挑みたいからだ。
でも、9月17日に行われたINI(アイエヌアイ)の東京ドーム公演『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』は、予習なしで観た。
昨年、Quick JapanでINIのシュウ・フェンファンにインタビューした。その縁で、今回、Quick Japan編集部からINIの東京ドームライブのレポート依頼をもらった。とはいえ、シュウへの取材は、エッセイの連載スタートに合わせたもの。インタビューでは本人の個人史や、ものの考え方について聞いた。
シュウのことは少し知れたが、INIのことはほとんど知らない。編集部からは「詳しい必要はない」「30代後半の男性ライターによる初めてのINI体験記が読みたい」と言ってもらえた。それでも予習なしの取材だと、自分の感性や観察眼をダイレクトに試されるから、ちょっと怖い。

でも今回レポートを書くにあたって僕は、「初めての体験」を大事にすることを自分に課した。“予習”は我慢して、ライブ会場で受けた印象で書くことにした。INIのライブに送り込まれた「30代後半男性」という被験者として僕は、INIという「新しい音や楽しみ」と出会った一部始終を書き留める。
言い訳めいたことを長々と書いてしまったので、本題を始める前にシンプルな言葉を置きたい。
INI、めちゃカッコよかったよ!!
有無を言わせぬ命たちの迫力
まず、ファンの多様性に驚いた。東京ドームの最寄り、水道橋駅に着いたのは開演の1時間前。ほとんどが女性だが、年齢層は小学生から60代くらいまでと幅広い。服装もかなりバラエティに富んでいる。しかしよく見ると、バッグにINIのチャームや缶バッジ、“ぬい”がついていてようやく「みんなINIを観に来ているんだ!」とわかる。
東京公演2日目は、平日木曜日、しかも午後2時30分開演である。にもかかわらず、約5万人もの観客がドームを埋め尽くしていた。客席からは、日本各地の訛りやイントネーションも聞こえてくる。INIのライブを目撃するために、全国からファンが集っているようだ。

定刻より数分遅れて、開演した。「CITY OF LIGHTS」というツアーのテーマを象徴するオープニングムービーは、『バットマン』のゴッサム・シティを思わせるカッコいい仕上がり。ステージにメンバーが現れると、ほとんど絶叫に近い歓声が上がった。
さっきまで、僕と同じように街を歩いていた人々が、11人の男たちとの対面を、心から喜び、叫んでいる。観客は、目頭を押さえたり、笑みをこぼしたり、ファン同士で顔を見合わせたり、思い思いに感情をダダ漏れさせている。INIの放つエネルギーに感化された5万人の生命力がほとばしる。有無を言わせぬ命たちの迫力に圧倒され、僕は涙ぐんでしまった。

5万人のファンの興奮を一身に受け止める肉体と精神の強靭さ
僕たちは日常で、声を、感情を、生命力を、押し殺している。自分の欲求を剥き出しにすることを社会はなかなか許してくれない。でもINIのファンたちは、今日この日だけは、喜びを思いっきり解き放つことができる。CITY OF LIGHTS=光の街。LIGHTが複数形であることに注目しよう。この光は、都市を生きる僕らのことだ。僕らは本来、発光している。でも、本当の街で目立てば、白い目で見られるから、僕らは光を隠している。
でもこの日の東京ドームは、INIの作る街だった。だからファンは安心して、生きていることを実感できた。ファンが持つペンライトは命が発光していることの証だ。INIは、そう思わせてくれた。
スクリーン越しにメンバーと目が合えば、即座に「きゃー!」と応える。彼らがシャツをずらして肩をはだけさせ、腹筋をちらりと見せるたびに、客席は色めき立つ。あるメンバーがリムレスメガネを外した瞬間は、僕も思わず声を上げてしまった。あんな色気ある男になりたかったよ……。

自分より年下の男たちの美しく鍛え上げられた肉体と所作に見とれながら、僕の体も熱を帯びていく。きっとファンはそれ以上の興奮に包まれていたことだろう。5万人のファンの興奮を、メンバーたちは一身に受け止めていた。その肉体と精神の強靭さに唸らされる。
強さを見せる一方で、感極まって涙をこぼすメンバーもいた。メンバーやファンの前で弱さもさらけ出せる。そんないい関係性が垣間見えた。

ユニット曲で見せるそれぞれの個性
今回のライブは全編バンドセットに支えられ、曲によってはストリングスも加わる豪華な編成だ。
1曲目の「Non-Stop」では、何本もの火柱が吹き上がるなかで、黒ずくめのINIとバックダンサーたちが群舞で見せる。黒の群れはスタンド席からでも迫力満点だが、その一方でスクリーンには、色気たっぷりのメンバーたちが次々とドアップで映る。目が忙しい。

激しいダンスナンバーでたたみかけるINIに圧倒されっぱなしだったが、初見にとってもありがたかったのはユニットのコーナーだ。4つのユニットに分かれて楽曲をパフォーマンスするシークエンスがあったのだ。
僕が一番ブッ飛んだのは、池﨑理人、田島将吾、西洸人による「SWING」だった。3人は、強盗団がトロフィーを盗み出した現場に登場する。火柱が上がり続けるなか、なぜか彼らは野球のバットを振り回し、ピックアップトラックの上に登ったりと、めちゃくちゃサグい(死語?)パフォーマンスで見せる。
個人的には昨年ベルーナドームで見たトラヴィス・スコットの「FE!N」にも通じる荒々しいサウンドに乗って暴れ回る3人が痛快だった。メンバーも「ドパガキソング」と言っていたこの曲はハイライトのひとつだ。
シュウと髙塚大夢が披露したジャズファンク「Spin It」は、ブルーノ・マーズ的なナンバーで、聴き応えがあった。レコーディングスタジオを舞台にした演出も楽しい。木村柾哉のピアノに乗せて、藤牧京介が歌ったバラード「君がくれたもの」は、ふたりで作詞作曲をしたそう。これまでの男臭いパフォーマンスとは真逆の端正なステージングに魅入られた。
「Give Me More」にも触れよう。この曲に参加した松田迅が、のちのMCで「なにわのめんそーれ」とイジられていたのを見て、同じ沖縄出身の僕は松田に興味を持った。あんなに耽美的な顔立ちで品のある青年が同郷なのか……。これから先も注目したい。

さらなる高みを目指す切実さ
最後のほうで、コール&レスポンスで「女の子ー!」とINIのメンバーが叫ぶと、当然大歓声が上がる。かたや「男の子ー!」の呼びかけにも野太い声が案外上がった。これにはメンバーが沸き、誰かが「うれしいなぁ」とつぶやいていた。

本公演の前日である9月16日にリリースした「ANTHEM」によってINIは、10作連続のハーフミリオンを達成したという。しかし、その大きな数字とは裏腹に、メンバーからはさらなる高みを目指すという切実さもうかがえた。彼らの見据える先は、男とか女とか関係なく、もっと広い層にINIのメッセージを届けることなのだろう。以前、シュウにインタビューした際、彼はこう言っていた。
自分たちのグループは、作品と一緒にスローガンを出すことがあります。たとえば「僕らを囲う“THE FRAME”を壊す」とか「CHANGE THE VIEW -見方を変えれば広がる世界-」とか。そういう大切なメッセージを本当の意味で伝えるには、楽曲やパフォーマンスだけじゃなくて、普段の行動や発信も大事だと僕は思います。
シュウのこの言葉は、ファンに向けたものだったのだろう。でもライブを目撃した僕はむしろ、今はINIの楽曲やパフォーマンスに不意打ちされる人が増えていく局面なのだと思った。楽曲やパフォーマンスの強度は十二分だ。INIのメッセージを“広く”届けるために足りないピースは、多くの人に知ってもらうためのきっかけだけなのだ。このライブで、INIの魅力を知った男の書いたこの文章が、ほんの少しでもその「きっかけ」になればと願う。
今が勝負どきであるINIの、背負うもののデカさと、その覚悟に痺れきった東京ドーム公演だった。
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