ザ・シネマメンバーズ「ジャック・リヴェットの世界」:PR

パリ留学中の和田彩花が語る、仏映画界屈指の“魔術師”ジャック・リヴェットの魅力「おもしろおかしくて、すべてがオシャレ」

2022.9.14
和田彩花が語るジャック・リヴェットの世界

文=原 航平 編集=森田真規


厳選されたおもしろい作品だけがラインナップされている、ミニシアター系の映画配信サービス『ザ・シネマメンバーズ』。現在はジャン=リュック・ゴダールやエリック・ロメール、ジョン・カサヴェテスといった監督の傑作群を楽しむことができる。

9月から10月にかけては、冒険と魔法の世界を描くフランス映画作家ジャック・リヴェットの、これまであまり観られる機会が少なかった作品が順次配信される。ラインナップは、『修道女』(1966年)、『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974年)、『デュエル』(1976年)、『ノロワ』(1976年)、『メリー・ゴー・ラウンド』(1981年)、『北の橋』(1981年)の全6作品。ワクワクする遊戯の世界に引き込まれる、瑞々しい映画ばかりだ。

「まじめに映画を撮っていたらできないような、遊び心のある描写が好きでした」──そう俯瞰する和田彩花に、現在留学中のフランスからジャック・リヴェット作品の魅力を存分に語ってもらった。

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和田彩花
和田彩花(わだ・あやか)1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月、アイドルグループ「スマイレージ」(のちに「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動をつづける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。趣味は美術に触れること。

最後の10分くらいになってやっと意味がわかる

19世紀の西洋絵画をこよなく愛する和田彩花さん。長年抱えてきたフランスへの憧れを胸に、2022年の2月からは渡仏留学してより近くで芸術に触れる日々を送っているといいます。映画もアートの延長として観ることが多く、感情を激しく動かされる娯楽大作よりは、たとえセリフがなくても自分で意味を解釈しながら観ていけるようなミニシアター系の映画が好きとのこと。そんな和田さんに、ジャック・リヴェットの映画を初めて観た率直な感想を教えてもらいました。

「私たちが住む現実の世界を舞台にして撮っているものが多いけど、突如として非現実的な、創造的(ファンタジー)な世界が飛び込んでくるのがとてもフランス的で、物語性の強さを感じました。観ているだけで、今自分がいる場所と創造的な場所を行ったり来たりできるのが楽しくて。もちろん、『何が起きているのか訳がわからない』と思いながら観てもいたんですけど(笑)、最後の10分くらいになってやっと意味がわかってくる構造になっていたり。そういう訳のわからないまま辛抱強く画面を観つづける体験も、私は好きです」

パリに留学中の和田彩花。取材はZoomを利用して行われた
パリに留学中の和田彩花。取材はZoomを利用して行われた

リヴェットの作品は「難解だけれど根気強く観つづけていれば楽しい映画」と言ってしまうと手っ取り早い。急展開の物語の中で時折ふたつの世界が入り混じり、登場人物たちについての説明描写はほとんどなく、彼女たちはあれよあれよと不可解な陰謀や事件に飲み込まれていく……。そこには既存のジャンルに分けられない不思議さがあるけれど、「観ているだけで楽しい」というのは本当にそのとおりなのだ。

【ザ・シネマメンバーズ】ジャック・リヴェットの世界

主人公たちについて行けば、楽しい世界に迷い込む

たとえば『セリーヌとジュリーは舟でゆく』は、パリの街ですれ違った女性ふたりが魔法のキャンディを舐めることで異世界に迷い込む『不思議の国のアリス』のような冒険物語である。ファンタジーと現実の間を軽やかに行き来する主人公たちを観ていると、想像力だけで自分好みの世界を創り上げていた子供のころの遊びの風景すら思い起こさせる。

「『セリーヌとジュリーは舟でゆく』はほかのリヴェット作品と比べると一番わかりやすいと感じたし、個人的には『メリー・ゴー・ラウンド』と並んで好みでした。途中で突拍子もない世界が出てくるんですけど、主人公のセリーヌとジュリーも意味がわからないままにその幻想に入っていくから、ふたりについて一緒に観て行けば、同じように世界の構造を掴んでいける。

特に、ふたりが夜中に図書館に潜り込むシーンが好きです。全身黒タイツを着たセリーヌとジュリーが、ローラースケートでパリの街を滑走する場面があるんですけど(笑)。ただただかわいらしくて、楽しげに見えて。あれは、まじめに映画を撮っていたらできない遊び心ですよね。そういう描写が楽しかったです。ちょっとおちゃらけていて、おもしろおかしくて、でもすべてがオシャレになっちゃうような」

『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(c)1974 Les Films du losange
『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(c)1974 Les Films du losange
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私たちの日常の延長線上にいる女性たち

リヴェットの映画で冒険に挑む主要な人物は、ほとんどが女性たちだ。だからこそ常に映画も華やいでいる。ストーリーについて行けない時間があっても、画面の細部を眺めているだけで目が喜ぶような衣装や色彩の豊かさも魅力のひとつ。

「部屋の中の装飾とか小物とかもそうだけど、そういう細かいところにアクセントとなるものがあって、それを観ているだけでもかわいいなって思いました。ヘアスタイルとかも、それぞれに個性があってかっこいい。(主に)1970年代の映画なんですけど、登場人物たちの服装が今の感覚とあまり変わらないとも思って。上下デニムだったり、ラフにピンクのキャミソールを一枚着てるだけみたいな。昔の映画を観るとどうしても『昔っぽい』と感じてしまうことがあるので、今フランスの街を歩いている人と変わらない気がするのはすごくいいなと思いました」

『メリー・ゴー・ラウンド』(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
『メリー・ゴー・ラウンド』(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

普段、映画を観ていて感じていた「ある疑問」も、リヴェットの映画ではうまく解消されていたという。

「今までほかの映画を観ていて、セリフの言葉遣いや仕草から性役割を強く感じることが多くあったんです。日常だと絶対こんなこと言わないよねってことをしゃべっていたり、特に女性の場合は子供っぽいセリフだと感じたりすることがあって。その点、今回観た映画の登場人物たちは仕草や話し方も含めて『作られたもの』という感じがしなくて、私たちの日常と地つづきだと思えたのがよかったです。そこにいきなり意味のわからない世界が入り込んできたりするから、おもしろいですよね(笑)」

『デュエル』(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
『デュエル』(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

変わりゆく風景が映像に残るロケ撮影の魅力

リヴェットの映画は室内の描写もあるけれど、同時代のゴダールやロメールといった監督の諸作品と同じく、ロケ撮影によってフランスやパリの街並みをありのままに映し出しているのも魅力的だ。

「パリの中心部は19世紀に整備された街並みがそのまま今も残っているので、この映画に出てくる西洋的な建物を観ているだけでもワクワクできるだろうなと思います。舞台となった場所にも行ってみたいですし、自分がまだパリに来れてなくて日本でリヴェットの映画を観ていたとしたら、『あそこもここも行ってみたい!』とすごく心が躍っていたと思います」

『北の橋』という作品では、パリの街を「双六(すごろく)」に見立てて冒険するふたりの女性が描かれる。風車を巨人と信じ込んで倒そうとする『ドン・キホーテ』の物語のように、竜の遊具を本物の竜と信じ込んで撃退しようとする場面もあるくらい、これまたマジカルなストーリー。美しい街並みをそのまま舞台にしているからこそ、心をくすぐる仕掛けにあふれている。

「『北の橋』は解体されたり新しく建てられたりしている建物の工事中の風景が頻繁に画面に出てくるのもおもしろかったです。近所にある公園の工事中の場面とかもあったりして。19世紀から街並みが変わってないところがあるにしてもやっぱり開発はされていくので、私が今見ているパリの光景が作られる前の時期を観られるのが新しい感覚でした。工事途中の現場で撮影しているっていうのはいいですよね」

『北の橋』(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
『北の橋』(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

作品なので、通して観ないとわからない

太陽と月の女王が魔法の石をめぐって決闘する『デュエル』や、弟を殺された女性の海賊が絶海の要塞で復讐に挑む『ノロワ』、失踪事件を皮切りに男と女が追走劇を繰り広げる『メリー・ゴー・ラウンド』など、あらすじだけを読んでも非常に突拍子もないものばかりだが、和田さんも中には最後まで物語を掴めない作品もあったのだそう。作品を観ていて「わからない」という感情に支配されたとき、どうすればいいのだろうか。

「アート作品も同じだと思うんですけど、10秒だけ観てすべてが伝わるって難しいと思うんですよ。永遠にわからないものが映し出されていたりしても、作品を最後まで通して観てみないと結局何が心に残るかわからない。通して観て結局わからなくても、それはひとつの発見だと個人的には思います。リヴェットさんの映画は、長い時間わからないものがつづいたあとに意味が理解できる描写があったりするので、それをぜひ待って、楽しさを味わってほしいですね」

『ノロワ』(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
『ノロワ』(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

リヴェットは、ゴダールやロメール、フランソワ・トリュフォーなど、1950年代後半からフランスで活躍した今も多くの監督に影響を与えつづける「ヌーヴェルヴァーグ」を形成する主要人物のひとり。しかし、それらほかの監督の作品に比べてリヴェットの映画は観られる機会が少なかった。

「配信サービスのおかげで映画を観る習慣は身近になりましたが、その中で観られるものには限りがあって。こういった作家性の強い映画に触れるチャンスはあまりないですよね。動画配信サービスの中でのランキングを頼りに、今流行している作品を観る機会ってすごく多いと思うんですけど、きっと『自分にとっての一番好きな作品』はランキングとかじゃない価値基準の中にあると思うんです。だからそうした今までの基準とは離れた場所で、自分の好きを見つけてほしいですね。私もこの機会にリヴェットさんの映画に出会えてよかったです」

ジャック・リヴェットの映画には、今までにない映画体験、かわいく遊び心あふれる冒険と魔法の世界が待っているはずだ。

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特集「ジャック・リヴェットの世界」で6作品を配信

ジャック・リヴェットの世界

ミニシアター系の映画配信サービス『ザ・シネマメンバーズ』にて、2022年9月よりスタートした特集「ジャック・リヴェットの世界」。

この特集では、フランス映画界屈指のファンタジー作家といわれたジャック・リヴェット監督作の『修道女』『セリーヌとジュリーは舟でゆく』『デュエル』『ノロワ』『メリー・ゴー・ラウンド』『北の橋』の6作品が順次配信されていく。

『修道女』(c)1965 STUDIOCANAL - SNC - Gladiator Films - Tous Droits Réservés
(c)1965 STUDIOCANAL - SNC - Gladiator Films - Tous Droits Réservés

『修道女』(1966年)
偽善と愛憎が渦巻く修道院でひとりの女性が苦悩する……。ヌーヴェルヴァーグの鬼才ジャック・リヴェットの問題作。

『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(c)1974 Les Films du losange
(c)1974 Les Films du losange

『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974年)
まるで『不思議の国のアリス』! 巨匠ジャック・リヴェットの遊び心が冴え渡る異色の冒険ファンタジー。

『デュエル』(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

『デュエル』(1976年)
太陽と月の女王が魔法の石をめぐって決闘! ジャック・リヴェット監督がフィルムノワール風に描くファンタジー。

『ノロワ』(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
(c)1976 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

『ノロワ』(1976年)
女海賊が絶海の要塞で復讐に挑む! リヴェットの前衛と演劇的な演出が光る冒険ファンタジー。

『メリー・ゴー・ラウンド』(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

『メリー・ゴー・ラウンド』(1981年)
“魔術師”ジャック・リヴェット監督の才気は制御不能! 男と女が繰り広げる終わりなき追走劇の行方は?

『北の橋』(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.
(c)1979 SUNSHINE / INA.Tous droits réservés.

『北の橋』(1981年)
パリの街を双六のように回る謎解きゲームが始まる! ジャック・リヴェット監督が贈る冒険ミステリー。

『ザ・シネマメンバーズ』とは?

ザ・シネマメンバーズ
ザ・シネマメンバーズ

「セレクトされた面白い作品しかないミニシアター系サブスク」
それがザ・シネマメンバーズ。あそこへ行けば、自分が好きなもの(作品)が見つかる。そんな場所(サービス)です。しっかりセレクトしたラインナップのこのサービス自体が、おすすめのプレイリストになろうという考えで作品を選定、お届けしています。

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原航平

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原 航平

(はら・こうへい)ライター/編集者。1995年生まれ、兵庫県出身。映画好き。『リアルサウンド』『クイック・ジャパン』『キネマ旬報』『芸人雑誌』『メンズノンノ』などで、映画やドラマ、お笑いの記事を執筆。 縞馬は青い

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