駒形友梨『stella』:PR

駒形友梨「なりたい自分になれない悔しさ」を超えて。初のフルアルバム『stella』で描く未来

2021.12.15

文=森 樹 編集=田島太陽


デビューからもうすぐ10年を迎える声優・駒形友梨。ソロアーティストとして初のフルアルバム『stella』は、過去/未来の自分をテーマに、幅広い音楽性にチャレンジした意欲作となった。

今回のインタビューではそのテーマを掘り下げ、「もどかしさや悔しさが強かった」というこれまでの活動と、それを乗り越えた上で見据える今後の活動について率直に話してもらった。

駒形友梨
(こまがた・ゆり)Apollo Bay所属の女性声優、歌手。2012年に声優デビューし、デビュー翌年から『アイドルマスター ミリオンライブ!』の高山紗代子役を担当する。2018年にテイチクエンタテインメント内のレーベル「ロッカンミュージック」より「トマレのススメ」でデビュー。『stella』は初のフルアルバムとなる。

思い悩んだ20代、自分を受け入れられた転機

──デビューから来年で10年目を迎えますが、思い描いていた声優像と、今のご自身ではどれくらい違いがありますか?

駒形 声優になる以前に思い描いていた状況とは全然違いましたね。もともと、坂本真綾さんが好きで、10代でデビューした真綾さんの活動をひとつの目標として考えていました。実際には、専門学校に入学してから本格的に声優の勉強を始めましたし、声優になってからもなかなか思うようにはいかなくて。

特に演技面で悩むことが多かったですね。なので、20代の大半は、「なりたい自分になれない」という悔しさやもどかしさを抱えていました。ここ数年ですね、「これが私の人生かな」と受け入れることができたのは。

──少し前までは焦りのほうが大きかった。

駒形 そうですね。でも活動していくなかで、人はそれぞれ違うから、同じ道を同じペースで歩むことはあり得ないと思えるようになっていきました。

──そうやって自分を受け入れる上で、転機となった作品はありますか?

駒形 転機はいくつかあって、デビューした翌年から『まんがーる!』と『アイドルマスター ミリオンライブ!』に携わらせてもらったことは大きかったです。特に『アイマス』では、新人の身の丈に合わない大きなステージにも立たせていただいて。

ダンスを始め、そこで自分の力不足を肌で感じたぶん、うまくできたときの達成感はありましたし、ずいぶんと成長させてもらったと思います。

──なるほど。

駒形 あとは、『キラキラ☆プリキュアアラモード』(2017)の主題歌を担当できたときですね。私も『おジャ魔女どれみ』や『美少女戦士セーラームーン』が大好きだったので、小さい子供たちが観るような作品の主題歌を歌えたことは、自分の歌に対して大きな自信になりました。

──歌手として選んでもらえたことも転機だった。

駒形 そうですね。演技に関して自信が持てるようになったのは最近で、2020年に『この空を見上げて』という、戦争を含んだ重たいテーマの朗読劇に参加してからですね。そのときの演技を見たスタッフの方やお客さまから「よかったよ」と好反応をいただけたことが、すごく励みになりました。

それまでは、狭い部屋の中でひとりもがき苦しんでいた感覚があったのですが、視界が開けて空間が広くなったというか。朗読劇という場は、アフレコ現場ともまた違う演技の場で、それが私にとって重要なものとなりましたね。

声優になって3~4年目が一番苦しかった

駒形友梨 / On My Way(Official Music Video)

──声優になられてから苦しかった時期はありましたか?

駒形 『アイマス』など大きな役が決まって以降の数年、声優になって3~4年目でしょうか。オーディションもなかなか受からず、現場での立ち回りに悩んだり、事務所の先輩方とのコミュニケーションをうまく取れなかったり……。そのときはけっこう心身共に消耗しましたね。

──声優業界もかなりの競争社会ですからね。

駒形 やっぱり仕事が決まらない時期はしんどかったです。なかなか孤独で、厳しいなっていうときに、ようやく『プリキュア』の主題歌が決まって。

──逆に業界に慣れてきたな、と感じる場面はありましたか?

駒形 WEBラジオ『だれ?ラジ』(2016~2021)ですかね。野村香菜子ちゃんと角元明日香ちゃんの3人で5年くらいやらせてもらったのですが、けっこうめちゃくちゃで(笑)。ラジオってこういうことまで言っていいんだなとか、いろんな振る舞い方を知りましたし、「クールで話しかけづらい」というそれまでの私のイメージもガラッと変わって、めっちゃイジられている人に(笑)。でも、それがきっかけでほかのラジオ番組へのゲスト出演が決まったり、幅が広がったところはありました。

──声優や歌手として以外の駒形さんを出せたというか。

駒形 いいのか悪いのか(笑)。でもそのおかげで今があると思います。

アーティストとしての活動は自由度が高いぶん、どう歌うべきか悩んだ

──駒形さんはキャラクターソングを歌うことにもこだわりを感じますが、ご自身のアーティスト活動を両立させたいという思いは当初からありましたか?

駒形 どうして歌手一本で行かなかったかというと、キャラソンを歌いたかったからなんです。声優を目指すきっかけとなった作品に『シャーマンキング』があるのですが、そのキャラソンアルバムで、劇中では歌わない道蓮(タオレン)が歌っていて、それがすごく好きでした。歌だとキャラの感情がより剥き出しになっていて、一緒に歌うことで感情移入ができたんですよね。

──そして2018年に、念願だったアーティスト活動をスタートさせました。デビューが決まったときの心境はいかがでしたか?

駒形 もちろんうれしかったですが、ここで油断してはならぬという気持ちでした。決まったからといって安心ではないし、舞い上がり過ぎないようにしていましたね。

──ご自身の歌と、キャラソンを歌っているときとで違いはありますか?

駒形 キャラやコンテンツに寄り添うかたちだと、「こういう歌い方が映えるかな」と客観的に考えることができます。逆にアーティストとしての活動は自由度が高いぶん、どう歌うべきか悩んだところはありました。かわいく歌い過ぎても私らしくないなと思いながら、これまでの歌のイメージはそちらだし、スタッフからもそういうものを求められていると感じていたので、どのバランスが正解なのか探っていきましたね。

──自分の中でその着地点を見つけたのはどのタイミングだったのでしょうか?

駒形 いろいろな曲を歌いながら自然に、ですね。曲調に合わせてここまでテンションを落としていいんだとか、現場でディレクションをいただきながら考えていきました。

──アーティスト活動を始めて、ファンの反応が変わったところはありますか?

駒形 作詞も担当しているので、「こういう歌詞や世界観が好きです」というリアクションをいただくことが多くなりました。それはちょっぴり恥ずかしくもうれしいですね。もともと、作詞には憧れがあったんです。真綾さんの書く詞が大好きだったのもあって、私も自分の思いを歌で表現できればと思っていたので。

これまでの自分と、今後、挑戦していきたいことを素直に見せた『stella』

──初のフルアルバム『stella』では、過去の自分と未来の自分がテーマになっています。

駒形 ちょうど30歳となり、声優としての活動も10周年に突入するというタイミングでの発売になったので、これまでの自分と、今後、挑戦していきたいことを素直に見せられたらなと思いました。楽曲も、シングルなどで過去に発表している6曲と、新しく描き下ろした6曲という構成になっていて。

──なるほど。その中でリード曲となっているのは「コンパス」です。

駒形 描き下ろし楽曲の中で最初に詞を書いた曲ですね。今の自分の思いが自然と入っている曲で、このアルバムを象徴するような一曲になりました。

──楽曲のテイストとしても、シティ・ポップあり、ロックあり、「happy weekend」のような、かなり自然体のラブソングもあります。

駒形 そういうラブソングもいいかなって(笑)。以前、「おそろい」という恋愛の楽曲を書いて、そこから詞を書くことにも慣れてきました。「happy weekend」は、好きなイラストレーターさんがいて、その人が描くかわいらしいカップルをモチーフにしています。

──普段、どういった場面で歌詞を描くのでしょうか?

駒形 曲をもらったら、書きたいことをiPadにバァーっとメモしています。そこからどこをどのブロックで使うかを決めて、メロディに当てはめていきますね。新しい言葉を出すタイミングと、それを整理するタイミングに作業を分けていて、新しく言葉を生み出すのはだいたい、目覚めの直後です。何も浮かばないときは「もう一回寝ようかな」って思います(笑)。あとは残った時間で整理して。

──負の感情を歌詞に反映させることはありますか?

駒形 そういうときもありました。ただ、年齢を重ねて気持ちが安定してきたのか、20代のころのような「ふざけんじゃねぇよ!」と爆発する怒りの感情はかなり収まりました(笑)。しかも私、最近は犬を飼い始めたので、さらに心身の安定度が増していて(笑)。だから詞を描くときは、そのテーマに沿ったギアに入れ替えてやっていますね。

いい意味での暗さ、“大人しっとり”な雰囲気をもっと出せれば

──アルバムが完成して達成感はありますか?

駒形 今回はいろんなことに挑戦したぶん、早く全曲聴いてもらいたい気持ちがあります。

以前、「トマレのススメ」のカップリングで、「Lonely Blueが終わる頃には」というシティ・ポップ調の楽曲を収録したのですが、それが思った以上に評判がよかったんです。そこから同じ路線の「Night Walk」の制作につながったりしたので。

駒形友梨 / Night Walk(Official Music Video)

──なるほど。そういう意味では、BURNOUT SYNDROMESの熊谷和海さんとの共作である「創(きず)だらけの詩」のロック・サウンドがどう捉えられるか楽しみですね。

駒形 そうですね。「創だらけの詩」は、自分のプランよりも「もう少し暗く歌っていい」と熊谷さんに言われたのが印象的な楽曲で。「ロックは口を縦に開いて歌うんだよ」とか、そういう歌唱法から教えていただいて、いろいろな気づきがありました。

──これからチャレンジしたいテイストの楽曲はありますか?

駒形 「孤悲(こい)」というバラードがあるのですが、あの曲に象徴される、いい意味での暗さ、“大人しっとり”な雰囲気をもっと出せればと思います。ポップでラブリーな「君と恋の予感」は今回、呼吸するように歌えたのですが、私は本来、「孤悲」のような曲が歌いやすいはずなので、精度を上げていきたいですね。

というのも、私の声はもともと暗く聴こえる声質らしいんです。だから、無意識に明るくしなきゃという思いがずっと働いていて、(暗くすることに)怖さがあるんですよね。そこは気持ち的にも技術的にも合わせられたらなと思います。

30歳だからって安定に走るのではなく、よりよい表現を求めたい

──コロナ禍になって、アフレコ現場にも影響が出たと思いますが、演技に取り組む姿勢で変わった部分はありますか?

駒形 家で過ごす時間が増えて、「自分ってどういうときが幸せなんだろう」と改めて考えるようになりました。その中で、いろんなものへの執着が減りましたね。たとえばそれまで外食ばっかりだったのが、自宅でご飯を食べることも苦じゃなくなったり。そこで気持ちが安定したところはあります。

──他人と自分を比べなくなったという側面もあるかもしれませんね。

駒形 確かにそうかもしれません。他人と比べてもっとがんばらなきゃ、という焦りはなくなった感じがありますね。もちろん、焦りがないと言えば嘘になります。でも、20代前半のころは、自分が落ちてしまったオーディションの作品を中心に、アニメ自体があまり観られなかった時期もありました。ここ数年はそういうこともなくなり、出演されている方の演技も客観的に見られるようになりましたね。

──これから目指していきたい声優像はありますか?

駒形 もっとみなさんに知っていただける声優さんになりたいですね。特に歌うこと、表現することが好きなので、最近はもっと歌がうまくなりたいと思っています。活動の中で自分の歌い方が定まってきたと感じているので、逆にここは進化させるタイミングだなと。特に、最近の歌手の方ってみんな歌がうまいので、負けないように。

「ずっと真夜中でいいのに。」さんとかはライブに行くくらいハマっているのですが、その楽曲を歌うことで自分の音域が広がることもありましたし、最近だとyamaさんの歌い方がめちゃくちゃ好きで、ああいうふうに声を出す練習をしています。

──より自分の可能性を広げるように。

駒形 30歳だからって安定に走るのではなく、よりよい表現を求めたいですね。演技もそうですが、特に、歌うことはずっとつづけていきたい。もし今のお仕事でお金をもらえないとなっても、やりつづけるための方法を探して、一生向き合っていきたいですね。

駒形友梨『stella』

発売日:2021年12月15日
価格:通常盤 3,850円/限定盤 4,730円
販売ページ:アニメイト限定盤ゲーマーズ限定盤とらのあな限定盤

<購入特典情報>
■アニメイト:複製コメント入りL判ブロマイド(アニメイト ver.)
■ゲーマーズ:複製コメント入りL判ブロマイド(ゲーマーズ ver.)
■ソフマップ:複製コメント入りL判ブロマイド(ソフマップ ver.)
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