ラジオ業界への憧れと80年代東京の輝き
――この小説でスージーさんが当事者として見聞きしてきた、80年代〜90年代のラジオ業界のことも興味深く読みました。
スージー 基本的にはラジオ業界に入りたくても入れない若者、つまり私が主人公です。不思議な縁で、この小説を書いている最中にラジオで自分の番組(bayfm『9の音粋』)が始まったりもしたんですけど、僕にとってラジオ業界は、憧れであると同時にずっとハードルの高いものだったんですよ。
――リスナーや学生スタッフとして、ラジオに能動的に関わりながら、時には厳しい展開に対峙していく様が胸を打ちます。
スージー 当時のFM局は特に「音楽の知識だけじゃなくて英語も多少はしゃべれなきゃ」という世界。大阪出身の、なんのコネクションもない、英語もからっきしな、単なる音楽好きの少年が、そこから何度も跳ね飛ばされる物語でもあります。
――そうしたテーマは書く前から決まっていたのですか。
スージー いえ、実はそんなことはないんですよ。浅草キッドの水道橋博士が発行しているメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』に連載していた原稿がもとになっていて、毎回、思いつくままに自転車操業のように書いていましたね(笑)。連載時は時系列もバラバラです。
――それは意外です! 各時代の分量は違えど、70年代から2010年代までの区分もはっきりしているので、最初から単行本を意識されていたのかと思いました。
スージー 書いているうちに全体の構造ができました。評論でもそうですけど、「とりあえず走り出す」みたいな感じで書いていると、最初は考えもしなかったアイデアや、自分でも驚くような結論に導かれることがあるんですよね。まさか、真島昌利を聴きながら、謎の女性とデートしたあの夜のことを書くなんて(笑)。我ながら驚いています。
――この物語を単行本として一冊にまとめるときに意識した小説はありますか。
スージー 本の帯にコメントを寄せていただいた田中康夫さんの代表作『なんとなく、クリスタル』です。80年代の東京を舞台にした先端風俗的な消費生活を描いた内容ですね。
――70年代末期に谷村新司がパーソナリティを務めた、毎日放送のラジオ番組『ヤングタウン』にハマる大阪の小学生時代から始まる冒頭を考えると、けっこう意外ですね。
スージー そうですね。僕自身は大阪の中でも東大阪っていう下町の匂いが残る街で育ちました。本来は『なんとなく、クリスタル』で描かれた“東京のキラキラした世界”とはなんのつながりもないバックグラウンドを持つ読者ですけど、やっぱりあの世界に憧れがあって。あの世界って青山の当時の風景だったり、流行っていたブランドの固有名詞が克明に描かれているじゃないですか。その手法を使って、70年代後半の大阪下町の風景とか、80年代中盤に上京した少年が見つめた、プラスティックな東京の風景を描けないかと思ってでき上がったのが、今回の小説です。
――ありがとうございました。最後にひと言お願いします。
スージー これから読まれる方は、ぜひ結末に期待して読んでください。最後のどんでん返しの展開も、書き始めたときには、予想だにしていなかったものです。あと、万が一映画化が叶うなら、主人公ラジヲくんの役は、朝ドラ『スカーレット』で関西弁がうまかった伊藤健太郎さんにやってほしいと思います(笑)。
スージー鈴木
1966年大阪府東大阪市生まれ。大阪府立清水谷高校卒業、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。音楽評論家、野球評論家、野球音楽評論家。高校の図書館で見つけた、渋谷陽一『ロックミュージック進化論』に天啓を受け、音楽評論を志す。しかし若くして大ブレイク、とはならず、社会人となりながらも、サラリーマンの傍ら地味に評論活動をつづけ、アラフィフとなった数年前より、次々と著書を出版。著書に『イントロの法則80’s〜沢田研二から大滝詠一まで』、『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』、『1979年の歌謡曲』『80年代音楽解体新書』、『1984年の歌謡曲』、『サザンオールスターズ 1978-1985』、『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ氏との共著)、『チェッカーズの音楽とその時代』など多数。マキタスポーツ氏と共演するBS12トゥエルビの音楽番組『ザ・カセットテープ・ミュージック』や、月曜日を担当しているラジオ『9の音粋』(bayfm)にも熱いファンが多い。
10月14日(水)20時~『恋するラジオ』刊行記念 「リアルタイム配信イベント」開催!
詳細は、こちら(本屋B&Bイベントページ)をご覧ください。
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恋するラジオ
発売日:2020年8月28日(金)
価格:1,760円(税込)
著者:スージー鈴木
ページ数:304ページ【目次】
Overture
序曲:白い靄の中の恋するラジオ(2039kHz)
A
#1:東大阪のアリス(1978kHz)
#2:大阪上本町のクイーン(1983kHz)
#3:早稲田のレベッカ(1986kHz)
#4:川崎溝ノ口のロッキング・オン(1988kHz)
#5:半蔵門の吉川晃司(1989kHz)
#6:武蔵小金井の真島昌利(1992kHz)
B
#7:阿佐ヶ谷のサザンオールスターズ(1993kHz)
#8:原宿の小沢健二(1994kHz)
#9:みなとみらいのRCサクセション(1998kHz)
#10:川崎駅前の加藤和彦(2005kHz)
#11:ふたたびの早稲田と山下達郎(2018kHz)
#12:ふたたびの東大阪と細野晴臣(2019kHz)
Finale
終局:日本武道館のビートルズ(1966kHz)関連リンク
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