霜降り明星・粗品の野望は止まらない。「プロのミュージシャンから“ライバル”認識が欲しい」
霜降り明星・粗品が、2021年1月に自身のレーベル“soshina”を立ち上げた。
「芸人が音楽やるときって、だいたいしょうもなく思われてしまう。俺はほんまに音楽が好きだから、“ゼロから作る”ということをしたくて」と真剣に語る彼の眼差しからは、芸人・粗品としてではなく、ミュージシャン・soshinaとしての熱い野望が痛いほどに伝わってきた。
3月31日に配信された「乱数調整のリバースシンデレラ」にかける想い、音楽に対する姿勢。そして、佐々木直人(粗品の本名)という人間の歴史から感じた、ボーカロイドへのリスペクトを深く追求した。
目次
芸人のお遊びノリとは違うふうに見せたかった
──趣味の枠を超え、お仕事として音楽活動しようと思った理由はなんでしょう?(粗品はレーベル立ち上げ前から、趣味としてボカロ曲を制作していた)
もともと音楽がめちゃくちゃ好きで、ずっとやりたいなと思ってたんです。けど芸人が音楽やるときって、正直9割ぐらいはしょうもないと思われちゃうと思うんですよ。やるからにはプロの方に失礼のないよう、同じ土俵でやりたいな、という理由でレーベルを立ち上げました。ただの芸人が「ちょっと趣味で曲出しました」とは違うふうに見せたかったんです。
レジェンドの方たちはまた別やと思うんですよ。たとえばダウンタウンさんとんねるずさんが音楽もされて、紅白出場とかはやっぱすごいじゃないですか。そうではない、同世代とかの芸人で、そんなに音楽好きじゃないのに「誰々さんに曲書いてもらいました~」とか言ってるのを見ると、僕はちょっと違うのかなぁと思います。
──プロの方に音楽を提供していただくのは、贅沢なお話ですしね。
そうですね。それってたぶん、ちやほやされたいからやってると思うんすよ。「芸人でちょっと成功したし、音楽もやりますかぁ! 俺歌うまいって言われんねん!」というのではなく、俺ほんまに音楽が好きなんで、“ゼロから作る”ということをしたくて。
──2020年5月3日、予告なしで配信された「ビームが撃てたらいいのに」も、ものすごい反響でしたね。
そうですね、ざわっとしていただきました。
──ちょうどコロナ禍の自粛期間に制作をされていたのかなと思ったのですが、今この多忙な時期にレーベル設立というのは驚きました。時間的な余裕も、あまりないのではないでしょうか?
いや、全然あるんです。自粛中にやったのも、確かに時間があるからっていうのは大きい理由なんですけど、何がしんどいって重い腰上げるのがしんどかったというか。
──一歩踏み出すことが。
はい。実は芸歴1年目のころから、初音ミクでボーカロイドの楽曲を発表するってことをずっとやりたかったんです。けど、何がしんどいってね……テクニカル的な面。最初DTMをするんですけど、ソフトのインストールとか、音源の導入とか、MIDIキーボードの接続とかを、10年ぐらい渋ってたんですよ。時間もなくて、詳しい知り合いに勇気出して聞くというエネルギーもなかった何年かがつづいたんですけど、自粛期間にさすがにやりたいなー!と思って。まぁ、人に頼もうと思えば頼めるじゃないですか。でも、それはちょっと嫌やなと思って、自分で調べて、細かい作業も一応アマチュア知識で全部やったのが「ビームが撃てたらいいのに」なんです。
──まわりに頼んだりもせずに、全部おひとりで?
自分でやりました。これで基盤ができたんで、そのあとは同じフォーマットで全部作れるから、あんまり忙しいっていう感覚はないですね。
──1曲の制作に1週間ぐらいかかるとお聞きしました。
ボーカロイド楽曲は全部そうですね。でも正直、やっぱりアマチュアだったというか。プロの方が聴いたら「なんやこれ」っていう状態やったと思うんですよ。だから、もっとクオリティを追求したくて、ユニバーサルミュージックさんの力を借りて「乱数調整のリバースシンデレラ」を作りましたが、これは1週間なんてとんでもない。3カ月ぐらいかかりましたね。作業が止まらないんです。今までは有識者の仲間がいなかったんで妥協して発表してたんですけど、音質とかピッチとか細かいところを「こんなにこだわれるんや!」って。
青春を捧げた、ボカロPに対する敬愛の念
──「乱数調整のリバースシンデレラ」は、そういった細かい調整もあって、今まで出されていたボーカロイド曲とはアレンジも異なりますよね。ジャンルでいうと、何になるんでしょう?
僕、アニメソングが憧れなんですよ。アニソンにめっちゃ触れてきてて、大好きなんです。だからジャンルでいうと、タイアップこそついてないですけど「アニソン風の曲」ですかね。HoneyWorksさんとかは、声優さんを立ててキャラクター作ってやってるじゃないですか。そういうイメージでしたね。
──いつか自分で声を当てるというのも考えていますか?
全然あり得ますね!
──以前『THE TRAD』(TOKYO FM)に粗品さんがゲスト出演していた際、「DTM界の最高ランクがYOASOBIさん。最低ランクが僕です」と謙遜されていましたね。ボカロP出身のアーティストが今とても人気ですが、今後ローマ字のsoshinaさんはその方向を目指されているんでしょうか?
なっていきたいですねぇ。憧れですね。ボカロP出身の方の何がすごいって、ボカロP時代には目に触れることのなかったお客さんにも認められてるじゃないですか。米津さんは、ハチ時代もめちゃくちゃ人気でしたけど、コア人気というか、やっぱ“ネット文化のハチ”だった。それが今や“誰もが知る米津玄師”。その流れがかっこよ過ぎるなと。米津さんの中でもいろんな葛藤があったと思うんですけど、「僕はそっちも全然いける」って見せつけられたのが感動しましたね。
──粗品さんは、自身の名前を隠してボカロP活動しようという気持ちはあったんですか?
それも悩みましたね。ただ、今自分が築き上げた説得力にちょっとわがままを言わせてもらったというか。本当はずるいんですけど、でも僕の作る音楽なんで、僕っていうのは出したいなって最終的に思いましたね。だから僕は、匿名のボカロPとしては真っ向から売れようとしたわけじゃないから、ほかの方はほんまにとんでもないと思いますよ。チャンネル登録者数0人のときから活動して名を上げていくって、かなりすごいですね。
──“人”に人気がつくわけではないですもんね、“曲”だけで勝負をするという。
いやまさに。実力勝負じゃないですか。そんな世界って珍しいと思うんですよね。僕は結局、吉本興業に入らせてもらったときから劇場があって、一定のお客さんがいる場所でライブに出させてもらって、ファンの人がついてくるという流れがわかるんですけど。ボカロPをやっていくってなると、このネットの大海に自分の動画を放つ。で、拡散力もないけど宣伝するって異常な労力というか。それで今ボカロPとして売れてる方めちゃくちゃすごいですね。尊敬します。
──ボカロにハマり出したのはいつごろですか?
高校のときですね。それこそハチさん、ピノキオPさんもそうですし、 DECO*27さん、wowakaさん(現実逃避Pさん)……僕はトーマさんが一番好きだったんですけど。そのへんが高校時代の青春ですね。一番聴いてた音楽がボカロです。
──ハマったきっかけはなんだったんでしょう?
「組曲『ニコニコ動画』」とかですかね? ニコニコ動画流星群とかで、「メルト」が入ってて、それで知ったんちゃうかな。ニコニコ動画のランキングのジャンルで「ボーカロイド」っていうのがあったんで、それで聴いてみようってなりましたね。昔は『Mステ』とか『COUNT DOWN TV』とかを録画してたんですけど、そっちを完全にやめて、毎週ボーカロイドランキングを見るようになりました。
──今後、ボカロではなく声優さんを立てて、アニソンの枠で活動していく予定ですか?
声優さんに歌っていただくのが夢やったんですよ。で、もっと言うとボーカロイドに歌ってもらう、っていうのも夢やったんですよね。でも、まだまだあるんですよ。“僕の夢を叶える活動”にしたいなと思いますね。ボーカロイド系アニメソング系以外のネットライクなカルチャー以外も、興味あります。それこそ、せいやとやるのも夢ですね。
──そうなんですね。漢字の粗品さんは、芸人・霜降り明星の粗品さんですが、ローマ字のsoshinaさんは、せいやさんとの関わりはどうなるのかな?と気になっていました。
ローマ字のseiyaが出てきて、そっちはそっちでやりたいと思います。seiyaとsoshinaで、shimofuriでやりたいですね。
原案はピンネタだった「乱数調整のリバースシンデレラ」
──この曲はどういったタイミングで生まれたんですか?
実は、もともとはコントネタやったんです。僕が高校生のころにやろうとしてたピンネタで、劇場でも1回やったことあるんです。メロディーとかはもちろん最近考えたんですけど、原案は昔からあるネタでしたね。
──声を当てられているのは竹達彩奈さんですが、この選択も粗品さんご自身で?
そうですね、憧れの声優さんです。以前共演させていただいたときに、竹達さんの仕事に対する姿勢とか、キャラクター愛とか、非常に感動したんです。声も最高なんで、一発目は竹達さんにやっていただけたら最高やなと思ってたんが、実現できましたね。自分の作った曲を自分の好きな声優さんに歌っていただけるってすごい体験じゃないですか。感謝ですね、ほんまに。
──竹達さんが声を当てているキャラクターの「彩宮すう(あやみやすう)」という名前もまたいいですよね。どうやって命名されたんですか?
正直、竹達さんの名前は入れたかった。なので彩奈の「彩」と、お姫様なので高級感あふれる「宮」っていう字を使いたかったんです。
──粗品さんの好きなアニメのキャラクターに通ずるものもあるな、と感じました。
確かに! (『ひぐらしのなく頃に』)の竜宮レナ、(『涼宮ハルヒの憂鬱』)の涼宮ハルヒ感もありますね。キャラクターの名前はPV観てもらったらわかると思います。ぜひ観てください。
──今まで粗品さんが上げていた「ビームが撃てたらいいのに」などの静止画ではなくなくなって、映像化されるんですね!
なりました。映像かわいいっすよ、ほんまに! これが制作期間3カ月たる所以というか。映像クリエイターの方とイラストレーターの方に感謝です。
──イラストレーターの方などもすべて粗品さんが選ばれたんですか?
そうですね、僕の希望で。
──本当にイチから手がけているんですね。
みなさん僕の作りたい作品のことをしっかりわかっていただけて、ほんまにめっちゃやりやすい環境です。
──粗品さんのボカロ曲は、特に歌詞が特殊ですよね。また何かおもしろい仕かけを期待してしまいます。
ありがとうございます。歌詞、確かに今までの曲の中で一番時間かかりました。……にやけてまうな(笑)。正直ね、めっちゃがんばりましたよ。「あれやって!」って言ったら実現してくれるんで、その環境をフルに使ったというか。
“見たことがない音楽”で、プロのミュージシャンからライバル認識をもらいたい
──今後のアーティスト“soshina”としての野望を教えてください。
めちゃくちゃおこがましいこと言いますが、プロのミュージシャンの方が、「ライバル」と思ってもらえるような存在になりたいです。ゆうても芸人の粗品なんで「まぁほっとけ、あいつは」みたいになると思うんですよ。逆に芸人界にミュージシャンの方が、漫才ユニット組みました!って入ってきたら「どうせおもんないやろ」って僕も思っちゃうだろうし。でもそれは自然なことであって。だから、真剣に音楽をつづけていくので「ライバル」という認識にしてていただきたいというのが野望です。
──レーベル活動で目論んでいることもあれば、ぜひお聞かせください。
“誰も聴いたことがない音楽”を作るのはけっこう難しいと思うんですよ。どんなパターンをやっても、長い歴史の中で見たら何かには似てしまう。これは仕方ないと思うんですよね。ただ、“見たことない音楽”は、まだできるんちゃうかなって思ってるんで。レーベルでは、僕なりのクリエイティブなアイデアが出せたらなと思います。見たことない音楽を、今後作りつづけていきたいなと思います。
──個人的には、今後音楽の大きいフェスなどにも出演されそうだなと思っています。
おもろいっすね、出たいっすね! フェス出番で時間余って困ったら、借金替え歌もあるんでね。
──(笑)。「アレクサvs粗品」も好きです。
(笑)。今回も揉めました。
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乱数調整のリバースシンデレラ feat. 彩宮すう(CV: 竹達彩奈)
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