遅く起きた日曜日に、焚き火を見つめて考える(スズキナオ)

2020.4.5

スズキナオ「遅く起きた日曜日に」第2回

文・写真=スズキナオ 編集=森山裕之


初の著書『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』が発売後わずか4ヶ月で5刷のヒットとなり、 SNSやテレビなどでも話題の「チェアリング」の開祖としても知られるスズキナオさん。

「なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにする」アイデアを提案する、誰にもできる遅く起きた日曜日の楽しみ方。大阪府が「外出自粛要請」を出す前、屋外で、ひとりで、焚き火を見つめながら考えたこと。


焚き火とは無縁の人生なんだと諦めていたのだが

先日、大阪市内にある大きな公園を散歩していた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて大阪府が「外出自粛要請」というものを出す前、すでに小中高校の休校が全国的に始まっている時期で、公園には暇を持て余した子どもたちがたくさんいた。

もうすっかり春のような暖かさだし、みんなできるだけ広い場所にいたいのだろう。私もまさにそのような気持ちでそこに散歩に来ていた。園内の一画では火気の使用が許可されていて、BBQセットを持ち込んで食事をしている家族が数組いる。肉の焼けるいい匂いが漂い、うらやましい気持ちでチラッとそっちに視線を向けると、なんだあれは。

銀色の皿のような、円盤のような器具の前にイスを出して座っている人がいて、皿の上で薪が燃えている。焚き火をしているのだ。なるほど、火気使用が許可されている場所でも、地面に直接火が触れる「直火」を禁止していることは多い。あの器具を使えば、そういった場所でも焚き火ができるということか。

さっそくスマホで「焚き火 円盤」などと検索し、少し苦戦した末にさっき見たとおりのものを探して当てることができた。アウトドアグッズメーカーのコールマンが出している「ファイアーディスク」というのがそれのようである。値段も5000円程度で思ったより手頃。通販サイトを何回かクリックすれば今すぐ買えてしまうがどうする? と自分に問いかけ、その場で即購入するのはいったんためらって、帰宅後にもう一度考えた上で買うことにした。

私はずっと焚き火がしたかったのだ。両親の実家のある山形へ遊びに行くと、親戚が畑の脇で枯れ枝や紙ごみをドラム缶の中で燃やしていて、たまに私に火の番を任せてくれた。火の番と言っても、親戚が畑仕事をしている間、ただじっと火を眺めているというだけだが、それがたまらなく好きだった。火というものが不思議で、見飽きることがなかった。

しかし、町の中に焚き火ができる場所はない。広いところへ行ってキャンプでもすればいいのだろうけど、そこまでのやる気はない。もっと簡単に、サッと焚き火だけしたいという。自分でもそんなわがままが許されるはずもないと思っていたので、焚き火とは無縁の人生なんだと諦めていた。しかし公園で見かけたあの銀の皿があれば、いきなり焚き火が身近なものになるんじゃないか。

河川敷には家にいて気が塞いだらしき人々が集まっていた


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