遅く起きた日曜日に、行けない山形に行った気分を味わう(スズキナオ)

2020.6.7

スズキナオ「遅く起きた日曜日に」第4回

文・写真=スズキナオ 編集=森山裕之


初の著書『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』が現在5刷のロングセラーとなり、 テレビ、雑誌、SNSなどでも話題の「チェアリング」の開祖としても知られるスズキナオさん。
「なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにする」アイデアを提案する、誰にもできる遅く起きた日曜日の楽しみ方。
行きたい場所へ気ままに旅に出るなんてまだまだ先の夢。子供のころからたびたび連れて行かれた、両親の実家のある山形の景色を思い浮かべながら過ごすうちに気づく。何か食べ物を取り寄せることならできるんじゃないか――。

気分だけでも山形に行ったかのように思えるのではないか

日々状況は変わっていく。国内の新型コロナウイルスの感染者数は5月中ごろあたりから減り始め、私が住む大阪では5月23日に休業要請と外出自粛要請を大幅に縮小するという発表があった。

数日前、用事があって少しの間だけ梅田を歩いた。新型コロナウイルスが騒ぎになる以前と比べると人出はだいぶ少ないが、それでも駅周辺はかなり混み合っている印象だった。

とはいえ、日本各地で毎日ある程度の感染例は報告されつづけていて、ということはそこからまた一気に感染者数が増えていくこともじゅうぶんにあり得る。ルールをゆるめた結果として感染者数が増えたらそこでまた縛りを強めてと、その繰り返しがつづいていくことになるのかもしれない。

そう考えれば、たとえ国内であっても、行きたい場所へ気ままに旅に出るなんてまだまだ先の夢なのだろう。外出自粛状態に突入して以来、「東京に行きたい」と、事あるごとに思う。大好きな地元の中華料理店でタンメンが食べたいし、好きな居酒屋ものぞいてみたい。友達の元気そうな姿を見て、実家にも顔を出してと、ささやかな望みばかりだが、やりたいことは尽きない。でもまあ、自分が知らず知らずのうちに感染者となり、誰かに迷惑をかけるかも……という新型コロナウイルスの巧妙で嫌らしい仕組みのせいもあって、今すぐに行こうとは思えないでいる。

それと同じぐらいの頻度で「行けたらなあ……」と想像するのが東北の山形である。私の両親が山形出身で、子供のころからたびたび両親の実家に連れて行かれた。年の近いいとこたちが遊び相手をしてくれたり、親戚たちの宴会に便乗してあちこちから小遣いをもらったり、夏にオニヤンマを捕まえたり、冬に裏山でソリ滑りをしたり、絵に描いたような田舎の楽しみを何度も味わってきた。

子供のころから好きだった山形だが、年を取ってくるとなおさら心に染み入ってくるように感じる。特にコロナ騒ぎのなか、家に閉じこもっている日々の合間に、山形に住む親戚の家のまわりの広々とした景色を思い返しては、「あのへんだったら感染を気にせず悠々と散歩できるのかもな」と、広い景色の中に飛び込んで行きたくなるのだった。もちろん、実際のところは山形のように感染者数が少ない(2020年6月5日時点で山形県内の累計感染者数は69人でそのうち67人がすでに退院しているという)土地のほうがかえって感染者への目が厳しかったりして、よそから来る者には特にシビアだろう。親戚から電話があり、「こっちはみんな元気です。また落ち着いたら遊びに来てな」と言ってもらったけど、それはいったいいつになるんだろうかと思う。

山形の景色を思い浮かべながら過ごすうち、「あ! 何か食べ物を取り寄せることならできるんじゃないか」と思った。それで、気分だけでも山形に行ったかのように思えないか。さっそく調べてみると、日本各地の飲食店や宿泊業者をサポートする通販サイト「TASTE LOCAL」で、山形の月山のふもとにある「出羽屋」という宿の「月山山菜そばセット」というものが販売されている。山菜料理にこだわった宿で、コロナの影響で休業を余儀なくされていたようだ(6月から営業を再開しているとのこと)。

山で収穫された山菜がたっぷり入って、そばとセットで2人前3,300円(2020年6月現在)。いつもの自分ならちょっとビビる額だが、山形の新鮮な山菜がその値段で食べられるというならこの話に乗らない手はない。よし、購入! その顛末を母にLINEで伝えてみると「『出羽屋』って有名なところだよ! 若いころに行ったなー。もう一度行ってみたいと思ってた」とのことで、期待がますます高まるのであった。

それと並行して、山形に住む私の友人の伊澤さんが通販サイトをオープンしたということも知った。伊澤さんは山形県東置賜郡(ひがしおきたまぐん)の高畠町(たかはたまち)に住んでいて、春から秋までは「つけものと手打ちそばの伊澤」という蕎麦屋を、冬季は「ロッジイザワ」というスキー場を経営している。

その伊澤さんが「伊澤商店」という通販サイトで自家製のスモークナッツを販売し始めたという。ナッツのほかにも高畠町の老舗漬物店「三奥屋」の漬け物など山形らしい食品類を扱っていて、あれこれ欲しくなる。ちなみに伊澤さんの蕎麦屋も5月末まで休業となっていたそう。久しく会えていない伊澤さんと何年か前に山形の河原で飲んだことを思い出しつつ、いくつかの商品を購入した。

まだまだ私の山形は終わらない

この記事の画像(全6枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

スズキナオ

大阪在住のフリーライター。「デイリーポータルZ」「メシ通」等のWEBメディアで記事を書いている。酒とラーメンが好き。パリッコとの飲酒ユニット「酒の穴」としても活動中。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)など。

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。