〈あのおぞましい〉ブルマ!なんであんな性的な代物を体操着として身につけなければならなかったのか(書評家・豊崎由美)

2021.7.6
豊崎由美サムネ

文=豊崎由美 編集=アライユキコ


オリンピックをめぐる政治家たちの醜い言説に疲れ果てていた書評家・豊崎由美の正気を呼び戻してくれたのが、松田青子『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』所収の一編「「物語」」。ほかにも、男性中心社会の中で昭和のがさつで無神経なおじさんタイプが発する言説のあれこれにうんざりさせられている人すべてにおすすめしたい11篇の作品集を紹介。

国民感情を揺さぶろうとする権力者

6月25日に発売された月刊誌『Hanada』(飛鳥新社)におけるジャーナリスト・櫻井よしことの対談で、安倍晋三が発した「歴史認識などで一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対している」という発言が話題になっていますが、正直、「またか」という気分です。

『月刊Hanada2021年8月号』飛鳥新社
『月刊Hanada2021年8月号』飛鳥新社


安倍晋三しかり、麻生太郎財務大臣しかり、二階俊博幹事長しかり、菅義偉現総理大臣しかりで、自民党の偉いおじさんたちは、どうして失言や失態を避けることができないのでしょうか。理由として考えられるのは、

・そもそも失言だとも失態だとも思っていない。
・自分にはそれが許されていると思っている。
・下層階級民からはどう思われてもいいと開き直っている。
・老化によって口にチャックしておく機能が低下している。

といったあたりでしょうか。
で、ここ数年の彼奴らの言動を振り返れば、己の愚を反省したり襟を正したりする気がないのは明らかで、こうした「蛙の面にションベン」的状況に、わたくしどもは徒労感と疲弊感を募らせるばかりだったりするわけです。(どうせ開催されるのであろう)オリパラ閉幕後に行われる衆院選が、彼奴らに一泡吹かせるチャンスではありますが……。

が、しかし、今回わたしが注目したいのは安倍発言の中の「反日的」というひと言なのです。安倍がこの言葉で狙っているのは、「オリンピック開催に反対しているような論者は反日なのだ」というレッテル貼りなのではないでしょうか。そのレッテルを貼ることで、新型コロナウイルス禍が一向に収束に向かわない日本でオリパラを開催することの無茶と危険性を指摘している大勢のまっとうな論者を、反日分子として国を愛する国民の敵に仕立て上げる。権力者はこうした意図的な“物語”によって、国民感情を揺さぶり、コントロール下に置こうとすることに常に気をつけていなくてはならないと、わたしは今回の安倍発言で改めて自分に言い聞かせた次第です。


で、そう言い聞かせるきっかけになってくれたのが、松田青子の最新作品集『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』(中央公論新社)に収録されている「「物語」」という一篇なんです。

都合のいいように語り直される「物語」

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