『あちこちオードリー』はタレントのガードを下げるトーク番組である(ラリー遠田)

2020.3.27

文=ラリー遠田 編集=鈴木 梢


先日、中川淳一郎のクイックジャーナルでは、ネット上の発言や情報を切り貼りして作られる「トレンドブログ」の問題について語られた。勝手に切り貼りされる問題だけでなく、悪意を持って切り取られた発言や情報により炎上するリスクもある。

「切り取り」リスクを考えて自由な発言を控える著名人たちは多いが、この時代に出演者を油断させ本音をしゃべらせ、反響を呼んでいる番組がある。テレビ東京の『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』(以下、『あちこちオードリー』)だ。お笑い評論家のラリー遠田が、同番組が持つ巧みな技術について解説する。

ネットの「切り取り」で生じる炎上

テレビやラジオでタレントが話した内容を紹介する記事はネット上にあふれている。『ワイドナショー』(フジテレビ)や『サンデージャポン』(TBSテレビ)をチェックして、ご意見番タレントが旬のニュースについて語ったコメントを書き起こして、記事の体裁を整えて本人の画像を入れて一丁上がり。そうやって工業製品のように流れ作業で記事が量産されていく理由は、それが最も簡単にPVを稼ぐ手段だからだ。

本来、発言には文脈というものがある。どういう話の流れでそれを言ったのかを踏まえなければ、発言者が本当に言いたかったことを理解することはできない。また、そもそも誰がどこで何を言ったのか、という基本的な要素を確認しておくことも重要だ。

だが、ネットニュースではしばしば文脈を無視した「切り取り」が行われる。そこでは「◯◯が□□□と言った」という事実だけが強調され、どういう番組でどういう文脈の下でそれが言われたか、ということはじゅうぶんに説明されない。

この書き起こし型ネットニュースの蔓延によって、タレントがテレビやラジオで自由に発言することが難しくなりつつある。何気なく話したことが予想外のネガティブな反響を起こしてしまう場合もある。いまやメディアに出演する人間のあらゆる発言は、「炎上」を起こす爆弾へと伸びる導火線につながっている。

ただ、そうは言っても、すべての番組でそのリスクがあるわけではない。多くのタレントは、メディアや番組によって発言内容を使い分けている。一般に、見ている人数が少ないほどリスク許容度は高くなる。

たとえば、芸人であれば、ゴールデンタイムの番組では老若男女にウケそうなわかりやすい笑いを提供して、お笑い好きの若者しか観ていないような深夜番組では前衛的なトガッた笑いを提供する。下ネタの濃度も放送時間帯によって変わる。

そんな放送枠によるタレントの意識の違いを巧みに利用していると思われる番組がテレビ東京の『あちこちオードリー』だ。

すべては出演者のガードを下げさせる罠

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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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