テレビやSNSに疲れた人に贈る、「ラジオリスナー」の始め方

2020.5.19


コロナがラジオに与えた影響

ところで、コロナ後はラジオの内容などに変化はあったのでしょうか。

伊集院光さんもツイートされていましたが、送られてくるメールが増えているそうです。

在宅率が上がって、ラジオを聴く機会やネタを考える時間が増えているのかもしれませんね。

とある地方のラジオ局の方に「最近どうですか?」と聞いたら、「送られてくるメールが長くなっている」と言ってました。

内容は2パターンあって、ひとつは「とにかく番組で読んでほしい」というメールで、もうひとつは「番組で読まれなくてもいいからパーソナリティにメッセージを届けたい」というメール。みんな話し相手を探しているのかもしれません。

確かに、在宅だと同僚との雑談がなくなりますからね。

今ラジオに求められているのは雑談だと思うんですよ。
先日NHK札幌放送局で、とにかく2時間雑談する番組が放送されたんです。リスナーはもちろん、北海道にゆかりのあるスポーツ選手やGLAYの皆さんに電話をつないで、とにかく雑談するだけの番組。クライマックスでは「雑談は世界を救う」という話になったんですよ。

いい話。

コロナの話ですら、ラジオ番組ごとに対応が違うんですよね。

そうですね。話題自体触れる局もあれば触れない局もある。ラジオNIKKEI第2なんて、朝から晩まで音楽をかけっぱなしですし。

感染症の専門家をゲストに呼んで特集を組むのも、「コロナはもううんざり」というリスナーのために音楽をたくさん届けるのも、ラジオの役割だと思います。

そういえば、僕と曜日替わりの女性アイドルがパーソナリティを務める『ミューコミプラス』で先日、パーソナリティも来られなくなったゲストも全員LINE通話でつないだんですよ。

おもしろいですね。

たまたま女性パーソナリティとゲストに共通の知り合いがいて、ラジオの中で話題になったんですけど、その人が「余計なことは言わないように」ってツイッターでつぶやいたんです。もう、すぐLINEグループに招待して。「呼んじゃえ」って(笑)。リモート状態を逆手に取っておもしろくできることもあるんですよね。

テクノロジーをどんどん取り入れて、企画をどんどん回していけるのはラジオのよさですね。

4月からTBSラジオで『松岡茉優 マチネのまえに』が始まりましたけど、もともと松岡茉優さんって相当のラジオ好きなんですよね。

高校時代にいわゆる“ぼっち”だったこともあり、教室の隅でポッドキャストを聴いていたそうです。それからラジオでしゃべることが夢になり、初のレギュラー番組オファーが来たときは、タイトルも内容も自分で考えたとか。

だからこの番組も、自らいろんな企画をされてますよね。

最近も自宅録音で、いきなりピアノを弾くなどいろんなことをされてますね。

初回の放送でなんかうしろの方でガタガタ音がするなと思っていたら、2回目の放送で「先週うしろで音がしていたと思うんですけど、私が洗濯機を回したまま忘れていたからです」と言っていて。そこも計算だったのかな、とか思ったり。

上手ですよね。伊集院さんに後継者として指名されただけのことはありますよ。

自宅録音で一番おもしろいのは、しゃべっている途中で宅配便が来ることですかね。あとは犬が吠えるとか。

東野幸治さんがYouTubeでやっている『東野幸治の幻ラジオ』でも「あ、今ウォーターサーバーの音が鳴りました」とかあっておもしろいです。

YouTubeチャンネル『東野幸治の幻ラジオ』。東野幸治の実の娘が編集を担当している。

コロナを機に録音も変わっていく気がするんですよね。

音のクリーンさよりも「いかにリスナーに喜んでもらうか」みたいなことが重視されそうですね。

ラジオリスナーとは生き様そのもの

結局のところ、「ラジオを聴く」ってどういうことなんでしょう?

ラジオって、ファミレスの隣の席の会話をずっと盗み聞きしている感じなんですよね。翌日も「この前いたおもしろいお客さん、今日もいるかな」と店に足を運ぶ。

だから、もちろんネタを送ってくれる職人リスナーも大事だけど、サイレントリスナーがすごく大事なんですよね。

基本的にサイレントリスナーがすべてですよ。

最近、ラジオ好きのアイドルっているじゃないですか。たとえば乃木坂46の山崎怜奈さんはradikoのマイリスト(お気に入り登録)が30本ぐらいあるらしいんですよ。

オールナイトニッポンやJUNK(TBSラジオの深夜放送枠)を聴いた後、早朝に始まる『上柳昌彦 あさぼらけ』(ニッポン放送)まで聴いているらしいんですね。

で、山崎さんが雑誌や配信でラジオのことを発信すると、ファンが同じ番組を聴き始めるようになるらしくて。

それはいいですね。自分が推してる子と同じものを楽しみたいですもんね。

たぶん、「ラジオを聴く」とは“行為”を勧めることではなく、“スタイル”を勧めることなんですよ。ラジオリスナーという“思想”を手に入れるというか。

ラジオを聴くということは、「他人に何かを言われても同調するのではなく、自分で考えて生きていく」と宣言していることに等しい。

なるほど。

ラジオのパーソナリティって嘘をつけないんですよ。自分が思っていないことを放送で話してしまうと、絶対にリスナーに「思っていない」ことがバレてしまう。

リスナーたちもパーソナリティの言葉に全幅の信頼を置いているので、絶対に裏切れませんよね。お互いの思想をぶつけ合っていると言っても過言ではない。

まだうまく言語化はできていないところが多いですけど、ラジオを聴いてくれる人がひとりでも増えたらうれしいですね。


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田中嘉人

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田中嘉人

(たなか・よしと)ライター/作家。1983年生まれ、静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、WEBメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TV Bros.、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ..

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