還暦目前のブラピが、表舞台から姿を消している?“おバカ過ぎる”最新作出演の理由とは

2022.9.3
ブラッド・ピット

トップ画像=『ブレット・トレイン』より
文=バフィー吉川 編集=菅原史稀


ブラッド・ピットが、ハリウッド超大作にして出演最新作の『ブレット・トレイン』プロモーションのため約3年ぶりに来日し話題を呼んだ。

『ブレット・トレイン』は、パンデミック以前のようなハリウッド映画の勢いを取り戻そう、映画界を元気にしていこうという趣旨のもとに制作されている一作。ハリウッドらしい景気のいいビッグ・バジェット映画を目指して制作されているだけにおバカ過ぎる内容になっており、細かいことは抜きで頭を空っぽにして観てもらいたい仕上がりとなっている。

そんな本作は、役者・ブラピがハリウッドメジャーシーンの最前線へ久しぶりに帰還を果たした作品でもある。今年6月には、雑誌のインタビューで「(プロの俳優として)今は最後の学期か、その手前」と発言したことにより、還暦間近にして引退疑惑もまことしやかに囁かれたブラピ(1963年生まれ、今年で59歳)。本稿ではそんな彼が役者として、そして人間として歩んできたこれまでの軌跡をおさらいしてみたい。

90年代以降、時代を象徴する“アイコン”に

先述のとおり、今となってはハリウッドを代表するスターのイメージが強いブラピ。しかし学生時代の彼は役者を志しておらず、大学ではジャーナリズムを専攻し、グラフィックデザイナーを志望していたという。彼が演技の魅力に取りつかれたのは、大学進学のためロスに移住したあとのこと。23歳のとき、映画『追いつめられて』(1987)で、ほとんどセリフがない名もなきパーティーの役員役でデビューを果たす。

同年に公開された『ノーマンズ・ランド』『レス・ザン・ゼロ』にも出演するものの、エキストラのような役ばかりだったキャリア初期のブラピ。翌年、晴れて主演に抜擢された映画『リック』は、タイミング悪くユーゴスラビア紛争の勃発によってフィルムが処分されてしまったことにより、1997年に公開されるまでに約9年もかかってしまうなど、苦しい時期がつづいた。

初主演作『リック』(1988年)製作当時25歳

しかし1992年、ロバート・レッドフォードが監督を務めた『リバー・ランズ・スルー・イット』での演技が評価され、有能な若手俳優として注目されたことで大きな転機が訪れる。その後の90年代中期〜後期にかけては、出演した作品が立てつづけにヒット。『12モンキーズ』(1995)では、ゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞した。ほかにも『セブン』(1995)『ジョー・ブラックをよろしく』(1998)『ファイト・クラブ』(1999)など、今も語り継がれるような90年代を代表する名作に数多く出演したことから、このころに彼の存在を知ったという人が圧倒的に多いだろう。

『ジョー・ブラックをよろしく』(1998)公開当時35歳

2000年代になっても『ザ・メキシカン』『オーシャンズ11』(2001)などの話題作に出演し、“ザ・ハリウッドスター”としての地位を不動のものとしていった。

スター同士の“ドロ沼愛憎劇”も?ゴシップが絶えなかった結婚生活

結婚の翌年、2001年に『フレンズ』で共演するブラピとジェニファー

そんな人気絶頂期のブラピは、ドラマ『フレンズ』でメインキャストを務めていたジェニファー・アニストンに猛アプローチ。2000年に晴れてゴールインを果たしてからも、主演映画の撮影現場にジェニファーと同行するなど、ハリウッドを代表するおしどり夫婦として知られていた。

が、プラピと同じくトップスターであったアンジェリーナ・ジョリーと『Mr.&Mrs.スミス』(2005)の共演をきっかけに急接近、その後ジェニファーとの結婚生活は幕を閉じ、アンジェリーナと夫婦に。一方ジェニファーのほうも、ブラピの親友で『Mr.&Mrs. スミス』にも出演していたヴィンス・ヴォーンと交際報道されるなど、ドロ沼愛憎劇がゴシップ誌を通じて繰り広げられた。

とはいえブラピとジェニファー自身は、互いを尊重し合い、きれいなかたちで別れたと発言しているし、結果的にアンジェリーナ・ジョリーとも2016年に離婚してしまったため、本当に“ドロ沼愛憎劇”だったか否かの真相は、今や謎となっている。

『Mr.&Mrs.スミス』(2005)

名プロデューサーとしての手腕を発揮

トム・クルーズが『アイアンマン』(2008)出演をオファーされていたという事実があるが、実はブラッド・ピットも『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)の企画初期段階では主役候補になっており、役のためにコミックを大量に購入するものの、当時の妻ジェニファー・アニストンに捨てられてしまった、という嘘か本当かわからないゴシップもあった。

こんな噂が世間から上がることからもわかるとおり、ブラピは出演する作品の原作や監督の過去作などを徹底的にリサーチする勉強家でもある。ただオファーされた役者として作品へ参加するだけではなく、その作品をよりよいものにしたいという思いも強い。

そして何より大の映画ファンであり、映画業界自体の発展を願っているのだ。その映画に対する情熱が、ブラピをプロデューサーの道に導いたといえる。そして、それが形として現れているのが、制作会社「プランBエンターテインメント」だ。もともとは当時の妻ジェニファー、映画プロデューサーのブラッド・グレイと共同で設立した会社であったが、現在はブラピの単独所有となっている。

ジョニー・デップ主演の『チャーリーとチョコレート工場』(2005)や『ディパーテッド』(2006)などの娯楽作品から、南部の黒人奴隷が生きた壮絶の12年を映し出す『それでも夜は明ける』(2013)やブッシュ政権の汚点をブラック・コメディとして描いた『バイス』(2018)のようなアメリカの暗部を映し出す社会派な作品、『ムーンライト』(2016)や『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)といった社会問題を繊細に描く作品も多く手がけていることから、アカデミー賞含め、多くの映画賞で評価される作品が多い。

『ディパーテッド』(2006)

近年は『地下鉄道 ~自由への旅路~』『ペーパーガールズ』『アウターレンジ-領域外-』など、配信作品の制作にも積極的。表舞台で活躍するブラピの姿を見る機会が以前よりも減っているのは、役者としての需要がなくなったわけではなく、プロデューサー業が多忙過ぎるからなのだ。

慈善活動家としての顔も。還暦目前でもあふれるバイタリティ

またブラッド・ピットといえば、慈善事業を行っていることでも有名である。それが知られるきっかけとなったのは、前妻アンジェリーナ・ジョリーの影響が強いだろう。アンジーは、多くのハリウッドスターやセレブを慈善事業に足を向けさせた人物であり、何より難民高等弁務官事務所の親善大使として、国連からも一目置かれる存在である。

映画俳優と慈善活動の関係性については、オードリー・ヘプバーンがその基盤を作ったとされているが、その規模をより大きくしたのはアンジーの功績であり、そんな女性のパートナーであったブラピも参加しないわけにはいかない。しかしふたりが結婚生活を送っていた当時は「ブラピは妻に流されているだけ」「アンジーの養子の世話をさせられている」といった、心ない意見も飛び交っていた。

しかしブラピは、アンジーと結婚前の1996年に故郷のミズーリ州にある児童学習博物館へ10万ドルを寄付し、南アジアにおいてのHIV感染孤児問題にも取り組んでいた。2005年にはハリケーン・カトリーナによる被害からの復興支援にも参加している。つまり、アンジーに流されて慈善事業をしていたわけではないのだろう。

2006年には、もともとアンジーが2003年に設立したチャリティ・プロジェクトにブラピが参加することで規模を拡大、MJP(マドックス・ジョリー・ピット財団)に改名された。2009年には1年間で4億円近くを慈善団体に寄付しており、子ども癌基金、貧困、災害の復興支援など用途はさまざまであるが、下手な政治家よりも世界復興に資産を使っている。

『ブレット・トレイン』

役者、プロデューサー、そして慈善活動家とさまざまな顔を持ちながら、どの分野でも全力投球をつづけているブラピも、今年で59歳と還暦目前。スキャンダルもあったが、世界に貢献し、俳優としても、プロデューサーとしても誰もが認める「ザ・ハリウッドスター」の立ち位置にいる。しかしそれで落ち着くどころか、常に世情を読みながら新しいものを取り入れつづけている。最新作『ブレット・トレイン』にて全力でバカをやってみせ、本気のぶっ飛び方を見せているのも、作品にかける思いの強さとその器の大きさからだろう。

まだまだ自身の進化に貪欲なブラピがどんな活躍をみせてくれるのか、これからも大いに期待したいところだ。

『ブレット・トレイン』

9月1日(木)から全国公開

原作:伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川文庫刊)
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:ザック・オルケウィッツ
出演:ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之、マイケル・シャノン、バッド・バニー(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)、サンドラ・ブロックほか

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