『呪術廻戦』13巻の絶妙な配分。連続する超インフレバトルの一方で「強さではない何か」が残る

呪術廻戦13サムネ

文=さわだ 編集=アライユキコ


映画版の公開(今年冬の予定)を待ちながら『ジャンプ』大好きライター・さわだが『呪術廻戦』(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)の既刊を1巻ずつ振り返っていく企画。今回は13巻、ますますインフレしていくバトルを解説(以下考察は、13巻までのネタバレを含みます)。

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強さのインフレと“蓋”五条悟の役目

スピーディな展開と連続したバトルがインパクト大の13巻。作中で「強さの天井」とされる五条悟(ごじょう・さとる)が不在だからこそできる途方もない強さのインフレが起こり、「渋谷事変」という長編において、間違いなくアクセルを踏み込んだ一冊だ。

偽夏油(にせげとう)ら呪霊軍団が五条封印のために引き起こした「渋谷事変」では、あちこちで強者同士のバトルが勃発。海から生まれた特級呪霊・陀艮(だごん)に立ち向かうのは、ツワモノジジイ感満載の禪院家26代目当主・禪院直毘人(ぜんいん・なおびと)、ほんの数話前に圧倒的な強さを見せて評価うなぎ登りの七海建人(ななみ・けんと)、さらには体術のスペシャリスト・禪院真希(ぜんいん・まき)の3人だ。

呪術師軍団としては準最強レベルのメンバーがそろうが、脱皮したばかりの陀艮はそのひとつ上を行く。あたりを南国のビーチ化する領域展開「蕩蘊平線」(たううんへいせん)と、サメやらウツボやら海の式神を際限なく生み出す術式「死累累湧軍」(しるるゆうぐん)で3人を追い詰める。

助っ人として現れた伏黒恵(ふしぐろ・めぐみ)によりなんとか3人は生き延びるも、陀艮を倒すことはできなかった。ポッと出かと思わせておいて、異常な強さの陀艮。おそらくは、戦闘自体が初めてだったことを考えると末恐ろしい存在だ。

4人がかりでも無理かと思われた矢先、オガミ婆(ばば)の降霊術で現世に復活した伏黒恵の父・禪院甚爾(ぜんいん・とうじ*禪院は婿入り前の姓)が現れる。呪力のイレギュラーで暴走した甚爾は、あれだけ強かった陀艮を圧倒してしまう。陀艮の時点で強さのインフレが起きていたのに、さらにそこを余裕で上回ったのだった。

通常ならば、過剰な強さにストーリーが破綻してしまいそうな展開だ。しかし、このマンガの強さの天井は五条と定義づけられている。よって、結果的にはそこに存在しない五条とほかのキャラとの差が浮き彫りになったかたちになった。しかも、そんな五条も戦い方次第では封印できるとわかっているため、どれだけ強い奴が出てきても、ストーリーは破綻しないような構成になっている。改めて、五条の封印が前提で作られた物語なのだと感じる。

直毘人&七海&真希<陀艮<漏瑚<<<<指15本の宿儺

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