NUMBER GIRLを多摩川に捨てた日(あっこゴリラ)

2020.1.19

2015年にドラマーからラッパーに転身したあっこゴリラ。自身で「向井さん」という楽曲を発表するほど敬愛する、向井秀徳との出会いを回想する。

「奇跡をまた起こしまくりたい」。そう綴ったこの原稿が『クイック・ジャパン』に掲載された6ヶ月後、あっこゴリラは「CINDERELLA MC BATTLE」で優勝。日本一の女性ラッパーの称号を得ることになる。

※本記事は、2016年7月7日に発売された『クイック・ジャパン』vol.126掲載のコラムを転載したものです。


コンポから流した瞬間、あの瞬間のことは今も鮮明に

あっこゴリラの楽曲に「向井さん」というものがありこの“向井さん”とはいったい誰なのかとよく質問されるのですが、 みなさんご存じNUMBER GIRL、ZAZEN BOYSのGt&Vo向井秀徳さまのことです。私は向井さんの作る音楽を猛烈に聴き、CDやLIVEだけでは飽き足らずカセットのデモ盤を買い漁るほどにハマりあげました。思春期に多大な影響を受け、ついには曲まで作ってしまったというわけです。

向井さんとの出会いは高1の夏、 当時16のあっこ(まだゴリラと契約前)は親の影響でキングクリムゾンやビートルズを聴くかたわら、JPOPや流行りのメロコアを適当に聴いたり、幼少期から習ってるピアノを弾いたり、適当に恋愛したりして過ごしておりました。

そんなとき、友人からたまたま借りたCDを学校帰りにコンポから流した瞬間、あの瞬間のことは今でも鮮明に覚えています。たとえるなら脳みそに詰まった炭酸水がスポイトで一気に引き抜かれ、レッドブル100億倍の劇薬が脳天に注入され、目が血走り、地球の底の感触を素足で初めて感じとり、世界vsあっこを初めてリアルに喰らわされるような感覚。

時空が歪んだ! 雷が落ちた! 視力が変わった! なんだ! なんなんだこれは!?

それがわたしのNUMBER GIRLとの出会い。まるで交通事故のような体験でした。それからの私の行動は若さと性格が相まって常軌を逸していました。

ドロ臭いのに都会っぽい、鋭利で煌く向井さん

「やべぇ、今まじで“センチメンタル過剰”なんだけど」「うわー“大あたりの季節”きたー」てな具合に日常会話に歌詞を引用したり、「酒を飲めないやつは人間じゃない」という向井さんのMCでの発言を鵜呑みにして「毎日ビール1缶飲む」というノルマを己に課して体質改善をはかったり、向井さんと結婚するという人生計画を立て、ブログに「長谷川京子が好き」と書いてあるもんだから髪を伸ばして大人の色っぽい女になろうとトレーニングしたりといった具合だ。

しかしその狂った行為も、向井さんが結婚したというニュースを聞いて発狂し、NUMBER GIRLのCDを多摩川に投げ捨て「馬鹿野郎!」と叫んだことで無事に終焉を迎え、社会復帰しました。めでたしめでたし(その後きちんと購入し直しました)。結婚で諦めるなんてあっこらしくない、とたまに言われるけどだって向井さんに犯罪おかしてほしくないもーん。

向井さんの音楽の何がスゴイって、ドロ臭いんだけどなんか都会っぽいというか、センスが鋭利で煌めいてるんですよね。それは向井さんが年齢を重ねて嗜好が変化したり、バンド形態が変わったところで揺るがない唯一無二のエキスだと思います。向井さんの影響でドラムもラップも音作りもやってるんだと思います。だってどうせ生きるならあんな奇跡をまた起こしまくりたいし!

次は私の番だ。書きながら思ったけど、やっぱ音楽ってヤバーイ。コンクリートジャングルに落ちてるみずみずしい一房のバナナだな。私もおいしい音をたくさん作ろうと思います!

以上を読んでいただいた上で、私の1stアルバム『TOKYO BANANA』に収録されてる「向井さん」、よかったら聴いてみてください!


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