遅く起きた日曜日に、海を見に行くだけ(スズキナオ)

2020.3.1

乾いた大地に染み込むかのように体に入ってくる発泡酒

日曜、昼過ぎに目が覚める。外の天気のよさがもったいなくて、なんだかこのまま家にいるだけでは気が済まない。簡単に身支度を終えて駅へ、大阪駅で乗り換えて網干(あぼし)行きの快速電車に乗り込み、本を読んだり、スマホを見たり、たまに窓の外を見て、気づけばウトウト眠っていたりして、そうしているといきなり海が目の前に現れる。

須磨駅の改札を出るとすぐにコンビニがある。そこで発泡酒を買い、コンビニの向かいの「水野屋」で和牛ビーフコロッケを買う。これだけでひとり飲みセットができあがる。それを持って砂浜へ。海水浴の季節ではないから人もまばら。水平線を一望しつつコロッケにかぶりつく。うまい。淡路島産の玉ねぎを使っていると書いてあって、私はこの「淡路島産の玉ねぎ」に弱くて、そう書いてさえあればなんでも美味しく感じる。乾いた大地に染み込むかのようにグングンと体に入ってくる発泡酒もまたうまい。

「水野屋」の正式な店舗名は「コロッケと…神戸水野家」だ。この「…」にどんな思いが込められているのだろうか、想像してみてください

海に近づいていくと水が透明だ。何度も見たことがある須磨の海だが、こんなに綺麗だったっけ。遠くいくほど海の底が青く見え、リゾート地に来たかのような気分だ。海面の絶え間ない変化。いくら人間が手を尽くそうと、このような繊細で複雑な動きを再現することはできないんじゃないか。自分が生まれる前からあり、自分が死んだあとも当然のように存在する、そういうものを見ることが与えてくれる安らぎがあるのだと思う。

名産の「須磨海苔」が買える売店が海辺にあり、そこで8枚入り350円の「一番摘み海苔」を購入。通常、海苔は何度も繰り返し摘み取るそうなのだが、その一回目で採れたものだけを使った海苔で、香りが格別なのだという。

時計を見ると15時。まだ間に合うな、と山陽電車の山陽須磨駅へ向かう。そこから一駅先の須磨浦公園駅まで行けばそこからロープウェイに乗って山の上まで運んでくれる。登った先には「須磨浦山上遊園」という遊園地があって、開園から60年の歴史を持つ昔ながらの遊園地といった風情。特に、遊園地エリアまで行く手前にある「回転展望閣」という建物が私のお気に入りだ。

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