日常にひそむエンタテインメント「おつとめ狩り」とは何か(パリッコ)

2020.2.28

フライパンに油は引かず、 たらの芽の天ぷらをジリジリじっくり炙る

昨夜10時頃、仕事でヘロヘロになりながらも石神井にたどりついた。僕が夜に仕事をしているとすればそれはほぼ「酒場取材」なので、本来ならまっすぐ帰って寝るに越したことはない。が、そんな夜、あともう一杯だけ飲みたくなってしまうのが酒飲みの悲しい性。僕は迷うことなくまなマートへ寄った。

店頭の野菜コーナーを眺めると、小ぶりな玉ネギがゴロゴロと2~3キロぶんは入ってるんじゃないかという大袋が150円。愛知産のキャベツが1玉88円。相変わらず安いな。

「チーフのおすすめ」とキャッチコピーのある特売商品など、バイヤーの独自のセンスとルートで仕入れられた商品が並ぶ


店内を奥へ奥へと進むと、さすが閉店間際、ほとんどの惣菜類が半額になっている。僕は、閉店間際のスーパーのおつとめ品タイムに買い物をすることを、勝手に「おつとめ狩り」と呼んでいる。この時間帯のスーパーは普段にも増して宝の山。普段なら決して口にすることのできない、100グラム1000円もする高級牛肉も、半額ならばワンコイン。帰ってフライパンでてきとうに焼いて食べるだけで、そこには日常の範疇から大いに逸脱した美味の世界が待っている。もちろん商品は歯抜け状態。が、自分の実力次第で、予想をはるかに超えた大物もゲットできる行為。少なくとも「もみじ狩り」よりはよっぽど狩りに近くないだろうか? 僕にとっておつとめ狩りは、トレジャーハンティングであり、同時に最高のレジャーでもあるのだ。

コロッケ、メンチカツ、唐揚げ、かき揚げあたりの揚げ物コーナーは、油断すると食べ切れないほど買い過ぎてしまい後悔することも多いので、いったん見ないようにする。「アサリの旨煮飯」なんていう小さな弁当もうまそうだし、ハンバーグ、ゆで玉子1/2個、ナポリタンとポテト少しずつが相盛りになった「ハンバーグセット」なんてのにも惹かれる。いや、ここはとことん渋く「芋がら油いため」という手もあるし……。なんて悩みに悩んで選んだ今夜の2品は、「真鯛刺身」と「たらの芽天ぷら」。それぞれ480円と230円の半額で、締めて355円。もちろん100円ローソンで焼酎ハイボールを1本買い、ホクホクと帰路についた。

家に着くと、妻子はすでに寝ている。キッチンでガサゴソと買ってきた物を取り出す。普段ならトレイのままいくところだけど、なんだか妙に豪華な組み合わせだし、いちおう皿に盛るか。と、真鯛をツマごと移動させ、仕切りに大葉を敷きつめてゆく。次に、たらの芽の天ぷらを加熱。レンチンでもいいんだけど、フライパンに油は引かず、ジリジリじっくり炙ると、お手軽にカリッとした衣が蘇る。
準備が整ったらテーブルに移動し、深夜のひとり晩酌開始だ。まずはスーパーで摘んできたたらの芽をひと口。あぁ、この青々とした苦味。春がそこまで来ているな。真鯛も爽やかな味でうまい。季節限定ものであろう焼酎ハイボールの「大分かぼす割り」がまた、この2品に最高にマッチする。

たらの芽の天ぷらはひと手間かけるだけで別物に。刺身のツマ、大葉も添え、ぜいたくな季節の2品盛りができ上がった


今日のおつとめ狩り、大成功だったな……。そんな自己満足の時間を経て、いやしい酔っぱらいはようやく、寝床に向かうのだった。

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