ドラマ『捨ててよ、安達さん。』に見る、断捨離の本質

2020.5.11

モノとの付き合い方は、人付き合いと同じかもしれない

『捨ててよ、安達さん。』では、「なんとなく」がキーワードとなっている。そもそもモノたちが「捨ててほしい」と頼むのは、安達の態度がはっきりしないからなのだ。

モノたちは、ただ「捨ててほしい」わけではない。捨てもせず使いもしない、そんな扱いを受けているから安達に「はっきりしてほしい」のだ(輪ゴムは例外だが)。いらないのなら捨ててほしいし、捨てたくないなら意思表示をしてほしい。そう考えると、モノとの付き合い方は人付き合いと同じなのかもしれない。

人付き合いも、なんとなく惰性だけで付き合いつづけるのは、どちらにとっても幸せなことではない。このドラマは、モノが擬人化することでうまく表現されている。

象徴的なのは、高校時代に使っていたガラケー(加藤諒)のセリフだ。

(C)「捨ててよ、安達さん。」製作委員会

「僕の仕事って、単にメールを送るとか、電話するとか。それもそうなんですけど、それだけじゃないと思ってて。人の、そのときのその人の人生を、預かってるつもりなんで。だから僕、短い間だったけど、安達さんの青春と共に、生きていたと思ってたんで。だから、別れるなら別れるで、ちゃんと、お互いが納得する形で、終わらせませんか?」

「僕は、恋の終わりくらいの気持ちで、青春を成仏させてあげるべきだと思うんです」

安達の夢には、もうひとりある少女が登場するのだが、彼女は基本的にモノサイドの存在であるゆえ、時折、安達を深く突き刺す辛辣な言葉を発する。以下はレジ袋を捨てないことに対してのセリフ。

「安達さん、使わないにもかかわらず、彼を捨てなかったのはどうして?」
『それは、いつか使うと思ったから?』
「捨てるでもなく使うでもなく生殺し。見えないところに遠ざけて、罪悪感から逃げてるんだ。得意だよね、安達さん」

このように、捨てられないモノたちから本音をぶつけられながら、安達はモノと真剣に向き合っていく。

「モノと向き合う」という断捨離の本質

モノ付き合いが人付き合いと同じなのであれば、やはり向き合うことでしか解決はしない。

たとえば、「自身の代表作の完パケDVD」(貫地谷しほり)に対して。当初は、その作品が自分にとって大切であることや、「観ないからといっていらないわけじゃない」などと返していた安達だったが、向き合うことで初めて自分の本音がこぼれてくる。

(C)「捨ててよ、安達さん。」製作委員会

「簡単に言わないで……。ずっと、あの作品の、安達祐実だった。最近やっとそれから解放されてきたんだよ? 観ちゃったら私また引っ張られるかもしれないし」

それに対して、「完パケDVD」は

「捨ててよ、安達さん。私あんたのこと縛りつけたくてここにいるわけじゃないんだよ」

と、安達を長らく縛りつけていた過去の象徴として残りつづけることを拒む。お互いに幸せではないからだ。

このドラマでは、モノに対して抱いている感情に対して「本当に?」が何度も突きつけられる。でもそれが、「モノと向き合う」ということだ。きっと、断捨離において一番重要なのは「モノを手放す」こと自体ではなく、「モノと向き合う」ことなのだと思う。

人付き合いでも、相手と向き合わないまま、なあなあな関係をつづけていくと、どこかでどちらかに負荷がかかる。モノとの関係性も同じなのかもしれない。「なんとなく」を理由にモノを抱えつづけるのは、どこか自分に負荷がかかる状態なのだと思う。モノに対してもきちんと自分の意思をはっきりさせるのは、その負荷を取り除くことにつながるのだろう。

モノときちんと向き合ったのなら、手放し方だって「捨てる」だけじゃない。誰か必要とする人に譲るでもいいし、形を変えて手元に残すこともできる。目の前の相手がモノでも人でも、どんな別れ方がお互いにとっていいのか。それを考えるのが、向き合うということなのではないだろうか。ドラマの中でも、「捨てる」だけではない、とても人間味のあるモノとの別れ方が描かれている。

外出自粛期間の今だからこそ、「モノと向き合う」にはいいタイミングなのではないだろうか。僕たちは日々気づかないうちに、人やモノ、社会に縛られている。それゆえに、自分の執着を手放すことや関係性を整理することは、心を軽くすることにつながる。その事実は、毎話ラストに見ることができる、安達の晴れやかな表情が物語っている。



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Written by

早川大輝

(はやかわ・だいき)92年生まれ。WEB系編集プロダクションを経て、フリーの編集者/ライターとして独立。生粋のテレビドラマっ子であり、メモ魔。インタビュー記事の企画と編集、たまに執筆をしています。

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