類稀なるトーク力と狂気的なまじめさを発揮するGAG宮戸の話



番組を盛り上げるためにはどんな努力も惜しまない芸人

そんな酒井の「ツッコミ力」と平子の「演技力」から生まれたコーナー「ヒラコパーティ」であるが、このように芸人さんのスキルに合わせた企画を考えるということはけっこうある。そんななか、2020年になってから類稀なるトークスキルとゲームにまじめに取り組むその姿勢を武器に『勇者ああああ』で次々とメイン企画を獲得している男がいる。その男の名は、GAG宮戸洋行である。

左からGAGの宮戸洋行、福井俊太郎、坂本純一。

宮戸と僕の最初の出会いは、東中野のゲームカフェで行われたマーダーミステリー会であった。マーダーミステリーというのは人狼とRPGを足して2で割ったようなゲームで、プレイヤー全員がストーリーの登場人物になりきり、会話形式でそれぞれの情報を共有、その中でアリバイの有無や矛盾点を見つけて最終的に殺人犯を炙り出すというものである。人狼と異なり毎回ストーリーも変わるため、的確な状況判断能力とほかプレイヤーとのトーク力が問われるゲームでもある。下手に喋ると疑われるし、物語の全容もよくわかってなかったので僕がだんまりを決め込んでいると隣にいた宮戸が叫んだ。

「みなさんここのシミを見てください! これ血痕じゃないですか!? ということは考えられる凶器は……これですよ!」

今聞いたばかりのストーリーを瞬時に理解するかしこさとほかのプレイヤーを引きつけるトーク力に僕は目を見張った。正直言うとそれまで僕が思っていた宮戸への印象は「コントの人」であり、平場でこんなにしゃべれること自体がとても驚きだった。さらにつづける名探偵宮戸。

「僕は絶対に井上さんが犯人だと思います!」

宮戸は同席していた先輩芸人NON STYLEの井上裕介が犯人だと主張し、ゲームとは思えない熱量で追い込みをかけていった。平場でのトーク力とゲームに真剣に取り組む姿勢を見て「この人、ウチの番組に向いてるかもな」と思った。ちなみに余談ではあるがその日の宮戸の推理はまったく間違っていてシミはただのシミだったし、井上もただの善良な市民だった。いろいろあって芸能界に復帰したばかりなのに後輩芸人に殺人犯の汚名を着せられるのも気の毒だな、と思ったのをよく覚えている。

そんな宮戸は、『勇者ああああ』に出演するときもゲームに対して真剣な姿勢を絶対に崩さない。Nintendo Switch Onlineに搭載されている巻き戻し機能を使って『超魔界村』をクリアするという企画の際には徹夜で予習を重ね攻略法を完璧に把握、収録当日は鮮やかなゲームプレイと圧倒的な解説で現場を大いに盛り上げた。後から聞いた話だがこの番組のためにNintendo Switchを自腹で購入したらしい。こちらがお支払いしているギャラから計算すると完全に赤字な気もするのだが、そんなことよりもゲームが下手だと思われるほうが嫌らしい。ゲーマーのプライドってやつである。

2020年4月2日放送予定の「野田フレンドパークⅡ」というコーナーにおいても宮戸のそんな「ゲーマーのプライド」を感じる瞬間があった。「野田ゲー」をクリアする度にマヂカルラブリー野田クリスタルからR-1ぐらんぷり優勝商品の「ストロングゼロ」が1本もらえるというめちゃくちゃゆるいお笑い企画だったのだが、その収録の1週間前に宮戸から僕にLINEが届いた。

「野田ゲーで対決すると聞いたのですが、対戦種目は事前にお伺いしてもいいのでしょうか?」

一瞬、質問の意味がわからなかったのだが「宮戸が野田ゲーを猛特訓しようとしている」という事実に気づいたとき、その異常なまでのゲーマーっぷりに僕はちょっと恐ろしさすら感じ始めていた。企画を考えた僕が言うのもなんだが、どう考えてもまじめに頑張るようなコーナーではない。だが「常にゲームには真摯に取り組む」宮戸にとって「野田ゲー」もまた絶対に負けられない戦いのひとつなのだろう。 収録がある度に人知れずゲームの練習に励むGAG宮戸。番組を盛り上げるためにはどんな努力も惜しまない、そんな彼に僕らができるのは番組に積極的にキャスティングすることだけである。そろそろ支払ったギャラの金額が、あのとき買ったNintendo Switch代ぐらいになったころではなかろうか。


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板川侑右

(いたがわ・ゆうすけ)2008年テレビ東京入社。制作局で『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ』などのADを経て『ピラメキーノ』でディレクターデビュー。その後『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』などのディレクター業務を経て特番『ぽい図ん』で初演出を担当。過去に『モヤモヤさまぁ〜ず2』のディ..

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